2009.September | vol.75
面白かったテレビが、これからも、面白いテレビでありつづけるために。
関西テレビ放送株式会社
編成制作局 東京コンテンツセンター 制作部副部長
兼 コンテンツ事業部プロデューサー
重松圭一さん
いま、テレビの番組制作現場は、さまざまな転機を迎えている。長引く不況が番組制作費に大きな打撃を与え、デジタル化に伴いチャンネルの多様化が加速。一方で、若者のテレビ離れが指摘される中、どうすればテレビを見てもらえるのかという根の深い問題も抱えている。そんな現状を受け、さまざまな工夫が始まっている。その一つが、関西テレビ放送と私たちIPGが提供を開始する<オンエアリンク(Gワード参照)>。10月13日よりスタートするドラマ『リアル・クローズ』と連動する。果たして、これからのテレビはどこへ向かうのか。『リアル・クローズ』を手がけるプロデューサー、重松圭一さんにお話をうかがってみた。
―ここ数年、テレビ視聴をめぐる環境が大きく変化してきたと言われています。今までとこれからのテレビについて、どのようにお考えでしょうか。
これは私の持論ですが、テレビとは「憧れの箱」だと思っています。テレビのスイッチをつけた途端、そこには必ず素敵な何かが出現する。私が物心ついたときからつい最近に至るまで、テレビはそういう存在だったはずです。しかし近年、娯楽の幅が広がり、PCや携帯電話といった「テレビ以外のエンタテインメントの箱」が次々と現われました。その結果、人々がテレビの前にいる時間が減り、「テレビの視聴率が下がる」という指摘がされています。視聴率の低下に伴って、スポンサー離れが進み、その結果経営を維持するため「放送外収入の増加」を唱える人が増えています。しかし私はその前に「憧れの箱」が憧れの箱でなくなりつつある、つまり「テレビの相対的な価値の低下」という根本的な問題と正面から向き合う必要があると感じています。
―「テレビの価値を下げないために何をすべきか」を考えることが重要だ、ということですね。
私は、そう考えています。「人はなぜテレビを見るのか」というと、シンプルに「スイッチをつけると見たいものがそこにあるから」のはず。そこを見失ったら、テレビはテレビじゃなくなってしまう。だから、最近の視聴者の置かれている環境を理解したうえで、どうすればテレビをもう一度「どうしても見たいもの」にできるのか、ということを改めて考え、施策をとらなくてはなりません。
―今回『リアル・クローズ』で<オンエアリンク>という新しいサービスを実現した背景には、今おっしゃったことが関連しているわけですね。
その通りです。テレビのゴールデンタイムといわれる時間に、街を歩いてみるとよくわかりますが、渋谷や原宿は若い人たちがあふれています。皆iPodで音楽を聴いていたり携帯電話でメールをしたりしているのです。つまり彼ら彼女らは、少なくともその時間にはテレビを見ていないわけです。こういう世代の人たちに、どうすれば「テレビを見たい」と思ってもらえるかが、私たちの近年の課題でした。<オンエアリンク>は、その課題に答えてくれる可能性を多分に秘めたサービスだと思っています。今回『リアル・クローズ』では、放送中に出演者の服やアクセサリーがサイトに紹介され、ドラマをリアルタイムに楽しみながら、同時に購入ができます。他にも、様々な活用方法があると思います。
―今、、リアルタイム視聴というお話が出ました。番組制作者としては、タイムシフト視聴ではなく、やはりリアルタイム視聴へのこだわりがあるのでしょうか。
日本の民放テレビのビジネスモデルの根幹はリアルタイム視聴にあります。ハイクオリティなコンテンツが、無料で見られる―この地上波テレビ文化は、そのコンテンツの間にあるCM枠によるスポンサー収入によってすべてが成立するというビジネスモデルに支えられてきました。これは、視聴者がテレビの前でリアルタイムにテレビを視聴して初めて成立します。それが崩れてしまうことは、日本の素晴らしい地上波テレビ文化自体が崩れていくことになりかねません。だからこそ、私たち番組制作者は、今回の<オンエアリンク>のようなリアルタイムで視聴してもらう工夫をし続けていくべきだと思っています。
―本日は、お忙しい中ありがとうございました。
今月のGワード『オンエアリンク』
出演者が着用した衣装等のアイテム・商品が、テレビ番組のストーリーに連動してECサイトにアップされ、オンタイムで同じ商品が購入できるシステム。番組内で紹介されたり、出演者が着用したりしている商品データと、番組メタデータとをデータベース上で紐付け、タイムコードに合わせて配信・管理できるダブルスクリーン対応の番組連動システムであり、テレビ番組が「視聴者に放送だけでは届けられていない情報」をリアルタイムに提供できるテレビ番組の視聴率 向上プロモーションの"キラー・システム"。
10月ドラマ『リアル・クローズ』では、ドラマで出演者が着用している衣装情報を事前にオンエアリンクに登録。放送に合わせて、ドラマシーンのキャプチャ画像と商品情報を番組公式サイトに自動アップロードし、視聴者がオンタイムで衣装等を購入できるサービスを提供している。