世の中には、テレビ番組を伝えるさまざまなメディアがある。私たちインタラクティブ・プログラム・ガイドが提供する電子番組表(Gガイド)もそのひとつ。一方で、雑誌という形態のテレビ番組情報も数多く存在する。番組の多様化とともに番組情報メディアも多様化する昨今、テレビ番組というコンテンツの価値はどのようなものなのかがあらためて問われてくる。従来のテレビ番組情報誌とは切り口を変えて今年創刊した雑誌「TRUE VIEW」の編集長、石井大輔さんにお話をうかがってみました。
―ここ数年で、テレビ番組情報の価値は、どのように変わってきたと見ていますか?
テレビ番組情報の価値自体は、今も昔も変わっていないと思っています。それを流通させるメディアと、それにどれだけのお金を払うかという生活者の姿勢が変わっただけなのではないでしょうか ? その変化によって、コンテンツのあり方に様々な工夫をこらすが必要が生まれてきたわけです。よく「紙メディアはどうなっていくのか…」と危惧する声をききますが、デジタルメディアはデジタルメディアなりの、紙は紙なり工夫をしていかなければいけないわけでして、そのことは、私たち編集人にとってチャレンジングで面白いことなのではないかと思っています。
―「TRUE VIEW」という雑誌を創刊するにあたり、石井編集長の思いや考えとはどのようなものでしょうか。
30代~40代の大人が読むテレビ番組誌って世の中にないなぁという思いが「TRUE VIEW」の原点にあります。今までの多くのテレビ番組誌は、どちらかというと「情報メディア」の色合いが強く、「読み物」としての色合いが強いものはそう多くありませんでした。また、読者ターゲットを絞った雑誌も少なく、さらには視聴率のとれそうな番組を優先的にとり上げる傾向があります。なので、それらとは明らかに違うものを創ろうという思いがありました。テレビ番組情報誌って、「知らない番組との出会いの場」であると思います。だから、みんなによく知られた番組=視聴率のとれる番組を紹介するよりも、ある特定世代の人たちにとって「見るべき良質な番組」を紹介する雑誌でありたい。それが、「TRUE VIEW」のコンセプトです。
―「TRUE VIEW」は、一つの番組を徹底的に掘り下げている点が特徴的ですよね。ここが、編集の「こだわり」の部分なのでしょうか。
テレビ番組って、時代を映す鏡であり、ジャーナリズムです。だから、一つの番組を掘り下げていくと、そこに、その時代や社会の深層テーマが見えてくるはずです。「TRUE VIEW」は、言ってみれば「テレビ番組のプロジェクトX」みたいなことをやりたいと思っている雑誌です。たとえば、巷では「くだらない番組」と評される番組があるじゃないですか。「ただ笑って終わりだけ」という。しかし、そういう番組は、「ただ笑って終わりにする番組」としての一つの役割や使命の中で作られているわけです。無数の情報や人間関係に囲まれたストレスの多い社会。だから、「せめてテレビの前だけでは、ただ笑って終わりにしたい」という生活者のウォンツがある。そのウォンツに向かって多大な制作努力が払われ、「くだらない番組」が作られていく。だから、「くだらない番組=よくない番組」ではありません。そういう「番組の真価」をきちんと伝えていく雑誌でありたいと思っています。
―表層的な番組情報ではなく製作意図や背景の部分にフォーカスすることで、読み手側にはどんな新しい考えやアクションが起きていくだろうと考えていますか。
先日、ある報道番組の取材をしました。一つの事件を追いかけていくにあたり、その制作に携わる人たちは、それぞれが、いろいろなことを考えたり、悩んだり、壁にあたったりしながら一つの番組ができあがります。オンエア上では、彼ら彼女らのそうした思考の内容や過程はほとんど映し出されませんが、実はそこに深いメッセージや斬新な視点が存在したりします。それを伝えることは、読者に対して、その番組の隠れた深さや面白さを提供することになりますので、見るときの姿勢が変わってくると思います。つまり、視聴者のテレビ番組の見方そのものを変えていく。そんな役割を担えたらいいですね。
―本日は、お忙しい中ありがとうございました。