2007.September | vol.53
クリエイターから見た、 「テレビ」の現在と未来。
『クリエイター・オブ・ザ・イヤー』2000年、2006年受賞
株式会社電通 クリエーティブディレクター/CMプランナー
澤本 嘉光 さん
「テレビ離れ」が叫ばれる昨今、広告会社では、テレビの価値をどう維持、向上させていくべきかが真剣に話し合われている。株式会社電通では、日本の広告業界におけるトップクリエイターの1人である澤本嘉光クリエーティブディレクターが、同社テレビ局員を兼務。澤本嘉光氏は、国内はもとより数々の海外広告賞を受賞し、過去2度も『クリエイター・オブ・ザ・イヤー』*を受賞。そんなクリエイターのエースが、メディア局社員として兼務するケースは、業界でもかなり異例といえる。なぜ、そのような「異例な選択」を彼はとったのか。そこに、これからの広告、これからのテレビに対 するどんなメッセージがあるのか。澤本嘉光氏本人に、きいてみました。
* 社団法人日本広告業協会(JAAA)主催、2006年は第18回
―まずは、単刀直入に。澤本さんは、どうしてテレビ局 と兼務しようと思ったのですか?
ここ3~4年で、世界で、「広告のあり方」というものが大 きく変わってきたと思うんです。5年前にある海外広告賞の審査員をやったときのことですが、「Dentsuってどんな会社 なんだい?」と外国人にきかれて、「営業セクションがあって、メディアセクションがあって…」と話すと、「えっ、Sawamoto の会社はクリエーティブだけじゃなくて、メディアもやってるの?」と驚かれました。「クリエイターの会社はクリエー ティブ専門」というのが当時の彼らの常識でしたから、なんだか不思議そうな顔をされまして。ところが、3年前にまた 彼らと会ったときには、反応がまったく違いました。「Sawamoto の会社は、メディアもやってるんだよね。いいなぁ。だって、 メディアも一緒に提案できるわけでしょ」って。僕らクリエイターの仕事が、変わってきたということです。どんなソフ トを創ったか、だけではなく、どんなメディアでどんなコンテンツを創ったか、が大事になってきた。クリエーティブと いう領域の中に、メディアが含まれるようになった。それで、テレビ局と兼務という選択に至ったのです。
―メディアの提案も一緒にできると、クリエーティブのコ ンテンツも変わってくるのでしょうか?
そのとおりです。たとえば、先日、日本テレビで、同時間4 夜連続で60 秒CMをオンエアしたところ、かなりの反響がありました。口コミやオンエア後のネット配信も絡めること で、話題性もありかつ記憶に残るコミュニケーションが実現 できました。クリエイターとしても 新しい面白いこと ができたという達 成感がありました し、結果、GRP 以 上の効果があった のでクライアントにも喜んでいただ きました。こういう試みは、メディアの提案とそこに流すコ ンテンツの提案を一緒にできないと実現しないことです。つまり、メディアもクリエーティブも両方1つの会社でやって いる日本の大手広告会社には、新しいネタやチャンスがたくさん転がっています。そのことに、気づいている人が、まだ 案外少ない。たとえば、私がいる電通という会社は、本当はいろんなことができるはずなのですが、「ソフトはソフト、 メディアはメディア」という考えにとどまっている人が、ま だ多いことも事実です。
※GRP = Gross Rating Point
―そういう試みを、放送局側は、どう受け止めているの でしょうか。
放送局の人たちには、わりとすんなり受け入れてくれました ね。放送局のコンテンツの中にCMが入っている、ということを彼らはきちんと認識しています。面白い番組を作っても、 その合間に流れるCMが面白くなかったら、番組側だってイヤですよね。「いいソフト」が並んでいるエリアは、「いいエ リア」に見えるわけですから。
―いま、広告業界では「クロスメディア・コミュニケーシ ョン」が叫ばれる一方、「テレビ離れ」というようなこと も言われます。それらを、澤本さんはどう観ていますか?
どんなメディアが出てこようと、結局は、ソフトが大事。ソ フトがいいもの面白いものは世の中に影響力をもち、そうでないものは廃れていくのだと思います。みんな周知のように、 今は、「ソフトとして価値のあるもの」が勝手に世界中に拡がっていく時代。なおさら、ソフトが重要です。たとえば、 テレビCMで言えば、いかに「記憶に残るCM」を創るかということがビジネス的にも大事なわけですが、今は、相当に ソフトがしっかりしていないと「記憶に残るCM」にはならない時代です。なぜなら、視聴者が「CMを見ない態度」と いうものを持っているから。ここが、10 年前と大きく違う点です。いらない情報はどんどんdelete する能力をみんなが 持っている。その中で「記憶に残るCM」を創るのが、クリエイターの仕事なわけです。
―「放送と通信の連携」ということがよく言われますが、 クリエイターである澤本さんにとって、インターネットと テレビの関係って、どんな関係ですか?
「人の感情を操る」ということに関しては、TVは絶大な力を 持ちつづけると思います。目と耳から入ってくる。このことは大きい。人間の感性に訴えるわけですから、何万語の文字 情報よりも、ある種強力な影響力を持っています。とはいえ、繰り返しになりますが、問題はソフトです。このことはイン ターネットにおいても同じ。よく、テレビCMで「つづきは web で」みたいなのがありますが、仮にCMが面白いおかげ でweb サイトに誘導できたとしても、そのweb サイトがつまらなかったら、結局台無しなわけで。今、決断や判断のた めの最終情報をインターネットでとるケースが増えているわけですから、今後ますますネット上のソフトのクオリティが 重要になることも間違いないですね。