2006.November | vol.43
電子番組表を世界に普及させたジェムスター社は、
日本におけるパートナーとして、なぜ電通を選んだのか。
ジェムスターマルチメディア株式会社
代表取締役社長
西村 明高 さん
世界に先駆け、アメリカで「Electronic Program Guide ( 電子番組表)」を開発したジェムスター社は、電子番組表に関する重要なパテント、技術を広範囲に所有している。アメリカ全土はもちろん、それこそ世界中に「輸出」され、先進各国において「電子番組表」がスタンダードサービスとして普及。1999 年4 月、そのジェムスター社が、日本の広告会社「電通」と組んで作った会社が、株式会社 IPG(IPG)。ジェムスター社が広告会社とパートナーシップをとって法人を設立するケースは、世界でもあまり例はないという。なぜ、そのような選択肢をとったのか。「電子番組表」は、どのように進化、発展していくのか。ジェムスターマルチメディア株式会社代表取締役社長、西村明高さんにうかがってみました。
「ジェムスター」ってどんな会社か、簡単にご紹介い ただけますか。
正式名は、Gemstar-TV Guide International, Inc. と申しま して、1986 年に設立されたアメリカの会社です。本社は ハリウッドにあります。 創業者はヘンリー・ユーエンで、彼が、テレビ番組情報を 最大8 桁数字にエンコードする技術を開発しました。それ が、みなさんも知っている「VCR Plus+(日本ではG コード)」というサービスです。この「G コード」に加えて、 より< メタな> データを提供できるシステムとして開発さ れたのが、「TV Guide On Screen」という電子番組表サー ビスで日本では「G ガイド」 としてサービスしているもの です。このサービスは、アメリカ全土に普及し、今では、 地上波テレビ、ケーブルテレ ビ、AV 機器、オンライン、 モバイルといった様々なプラットフォームに提供されています。テレビを見ようとす ると、必ずGガイドに触れる・・・アメリカ全土でのカバー率は、100%以上、つまりその地域で地上波だけではなく、 複数のケーブルテレビでサービスされています。また重要なのはこれらサービスに必要なパテントの殆どを押さえて おり、安心してサービスをご利用頂けるという事です。
お話をうかがうと、「G ガイド」って、テレビという メディアにおける「マイクロソフト」のような存在に 見えますが・・・
確かに、そのようにおっしゃる方もいます( 笑)。創業者 のヘンリー・ユーエンは、まさしく「天才」でして、考え出したビジネスモデルで会社が発展しているという点では、 通じるものがあるかもしれませんね。ただ、コンピューター アプリと大きく違うのは、G ガイドは、テレビ番組という その国々においてそれぞれ独特の< 文脈> をもって世の中に送り出されるコンテンツと絡んだサービスである点。こ こが、G ガイドの普及にあたって、とても重要なポイント になります。
ジェムスターが、日本におけるパートナーとして「電 通」を選んだ理由も、その点に関係するのでしょうか?
そうです。テレビ番組に関して、日本がたいへん特殊なの は、「EPG コンテンツ情報の全ての権利が放送局に帰属している」点です。欧米の場合、コンテンツ情報のバイアウ トが可能ですから、買い上げた情報は二次利用が可能。従って、オピニオンリーダーや視聴者による番組レコメンデー ション等を自在に露出することもできます。しかし、日本は、今のところ、そういうわけにはいきません。放送局の 理解、協力なしには、電子番組表サービスは成立しません。しかも、「全」放送局との。それができる企業は、日本で は「電通」しかありません。
放送局との強いリレーションが「電通」を選んだ理由、 ということですか?
いいえ、それだけではありません。もうひとつ、電通に大 きく依存する理由は、「広告」です。日本で電子番組表サービスを展開する際に、「広告」はたいへん重要な要素。無 料放送である地上波放送がメインの日本では、アメリカと違って、「テレビ=〈ただで面白いものが見られる〉」とい う風土が定着しています。電子番組表も、基本的にお客様には無料で提供されるべきものですから、そのためには広 告というビジネスを組み入れることが大変重要になってき ます。いま日本のG ガイド、G ガイドモバイルともにす べて無料で提供され、広告が組み込まれていますが、電子 番組表と広告を組み合わせたビジネスモデルは、世界各国のなかでも日本が最もうまくいっています。 それと、もうひとつ、ジェムスターが電通に期待していることが「新しいビジネスの創出」です。日本特有のカル チャー、インフラの中で新しいビジネスを展開していくには、人材、情報、ネットワーク力において日本のトップに いる電通とのパートナーシップは不可欠であると考えています。たとえば、今アメリカでも普及している「G ガイド モバイル」は、携帯電話が発達する日本特有のインフラ環境から生まれた「日本発」のサービスです。
G ガイド、G ガイドモバイルは、これから、どのよう に進化していくのでしょうか。
先にも申し上げましたように、番組情報のライセンス等の 話と関わってくることですので、一概に「技術的な進化がサービスの進化に直結」することにはなりません。ただ個 人的に思っていることは、『私って、どんな番組を見たらいいの?』という生活者に対して最適なコンテンツをレコ メンデーションできることが、プログラムガイドが目指すべきサービスのカタチなのではないでしょうか。
ありがとうございました。知らなかった話をたくさん 聞くことができました。今後もパートナーとしてよろ しくお願いいたします。
こちらこそ。