2006.September | vol.41
テレビ放送とインターネット。相性が悪いとされてきた2つのインフラは、どう交わっていくのか、いかないのか。
株式会社ACCESS
取締役副社長 兼 CTO
鎌田 富久さん
相性がいいのか、悪いのか。テレビ放送とインターネット。生活者にとってみれば、一見簡単に交わりそうなこの 2つのインフラは、現実として、連携も融合もほとんどされずに、十数年の歳月を過ごしてきた。しかし、今年に入り、インターネットが見られるデジタルテレビの普及や、携帯端末におけるワンセグサービス、EPG(電子番組表)を介したりリモート録画予約サービスの普及等、テレビ放送とインターネットは急速に融合、連携の兆しを見せている。2011年に地上波放送全デジタル化とい転機を迎えるわが国において、この2つのメディアはどこまで融合していくのか。いかないのか。デジタルテレビ向けのブラウザソリューション「NetFront(R)」の開発者である、株式会社ACCESS取締役副社長の鎌田富久さんに、うかがってみました。
―デジタル化、ワンセグの開始など、今テレビ放送が大きく変わろうとしています。この動きをどのように観ていますか?
率直に「おみしろい時代が来たなぁ」と思っています。ワンセグや電子番組表のようなサービスが登場したことにより、テレビを視るという行為が時間と場所にとらわれないようになる。そうなると、ネットというインフラがキーになってくると私たちは思っています。具体的に申し上げますと、たとえば電子番組表の登場によって、録画スタイルが「選んでためる」から「ためて選ぶ」へシフトします。とりあえずどんどん録画してしまい、後でその中から自分が見たいものだけを選んで見る-この「選ぶ」プロセスにおいて、ネットというインフラがキーになってくると思います。なぜなら、「選ぶ」ためには、その基準となる「情報」が必要なわけでして、ネットというインフラは、ブラウザという機能によって欲しい情報を主体的にとっていくことができますし、メールという機能によって旬な情報を受動的に得ることもできるからです。
―テレビ放送とインターネットの将来像をどのようにお考えですか。
そもそも、パソコンとテレビと、この2つのハードは、メディアとしての性質が大きく違います。前者は、使うときにしかスイッチを入れないし、基本ひとりで見る。後者は、見ていなくてもわりとだらだらとスイッチを入れておき、しかも大画面、大勢で見ることが出来る。この差は、かなり大きいと思います。言ってみれば、テレビというのは、家の中の誰もが見られる「情報センター」であると考えることができます。「情報センター」であるなら、そこに載るコンテンツサービスは、テレビ番組だけである必要は無く、番組表であってもいいし、インターネットであってもいいわけです。そうなると、生活者のテレビに対する接し方に「変化」が起きる、つまり、テレビが、passiveなインフラからactiveなインフラに変わっていくのです。
―私たちIPGが提供するGガイドも、テレビにそういう変化を起こすツールだと考えているのですが、鎌田さんから見るとどうですか?
ユーザーの注意をテレビに引き込むツールとして、言い換えれば、テレビに対するactiveレベルを上げるツールとして、大きなポテンシャルを感じますね。ネットと連携していけば、さらに画期的なツールとして進化していくのではないでしょうか。
―冒頭で「おもしろい時代になった」とおっしゃっていましたが、起業して以来、この数十年を振り返ってみて、今という時代をどう感じられていますか。
「世界で通用する日本産ソフトウェアをつくりたい」という思いで、22年前に起業しました。日本は、ハードウェア作りでは常に世界をリードしてきました。家電においても、携帯電話においても、コンパクトなサイズと優れた機能を両立させることでは、世界最先端の技術を持っています。なのに、ソフトウェアでは、欧米にリーディングポジションを保たれてしまっています。でも、私は、日本がソフトウェア作りが苦手だとは決して思いません。チャンスをつかまえられなかっただけである、と。そこで、今は「大きなチャンス」だと思うのです。なぜなら、放送と通信の関係性が全世界的に大きく変わろうとしているわけで、そういう新しいコトが始まるときは、既成の勢力図が書き換わるときだからです。だから、私は、今は「20年に一度のチャンスの時代」だと思っています。
―お忙しいところ、興味深い話をいただき、ありがとうございました。