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Gプレスインタビュー

2013.July | vol.121

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ドラマと視聴率の、繊細な関係。

株式会社鈴木会社
代表取締役/プロデューサー

鈴木 吉弘さん

すずき・よしひろ
1968年生まれ。
元フジテレビジョン所属の映画・テレビドラマプロデューサー。
ドラマ『電車男』、『西遊記』などを手掛けたヒットメーカー。
『ガリレオ』シリーズを企画から担当。現在はフリープロデューサーとして活躍中。

ドラマの視聴率争いは、ドラマの内容そのものとは別に、メディアで話題のネタとされる。「あのドラマが、瞬間○%を超えた」「あのドラマが、ついに○%を切った」…そんな報道に、テレビ局は日々戦々恐々としている。かつて、人気ドラマといえば30%以上の視聴率をとっていた時代にくらべて、現在では20%を超えるのさえも難しい時代となった。とはいえ、ドラマの人気が衰えたわけではない。数字が下がった背景には、タイムシフト視聴の浸透などメディアや視聴スタイルの多様化に伴い、リアルタイムでドラマを視聴する人の割合が減っていることがある。そうした視聴者側の変化のなかで、ドラマ制作者たちは、どんな戦いをしているのだろうか。今年、6年ぶりに復活した『ガリレオ』シリーズ(フジテレビ系列)で、平均視聴率19.9%という高い数字を残したプロデューサー鈴木吉弘さんにお話をきいてみました。

-- 6年前にヒットした『ガリレオ』の続編をやるにあたり、今回、監督もヒロイン役も変わりましたが、前作より劣ってしまったらどうしよう…という不安はなかったのでしょうか。

当然、不安はありました。でも、不安がないとダメなんですよ、自分の場合。「どうしよう…」「どうなってしまうんだろう…」という不安やドキドキの中でつくっていく緊張感が、僕は好きなんです。その緊張感がないと、モチベーションが上がりません。今回の『ガリレオ』も、前回とまったく同じものを…という考えは、僕にはありませんでした。だから、監督が映画のスケジュール上の都合でテレビを撮らなかったことも、柴咲さんからの提案もあってヒロインを吉高さんへ変えたことも、それがちょうど僕にとってポジティブだったわけです。

-- 局はそれをすんなり受け入れてくれましたか? 鈴木さん自身が「変化」を望んだとしても、局の本音は、「前作がせっかくあたったのだから、できる限り変えないでほしい」だったりはしませんか?

 正直、ありました(苦笑)。前回よかったのだから、今回も前回と同じようにやってくれればいいんですけど…的なことを言う人もいました。ただ、フジテレビという局は、本来はそういうことを言わない局です。そもそも、僕が常に変化を求める、そうでないとモチベートされないようになったのは、フジテレビからたたきこまれたものです。若い頃、上司からは、とにかく「新しいこと」をしなさいと言われました。よい番組をつくろうとするのではなく、新しい番組をつくりなさい。なぜなら、「よいか、悪いか」は、人それぞれ価値基準によってまちまちだから正解がないけれど、「新しいか、新しくないか」は、過去にあるかないかという明解な基準で測ることかできるから。だから、新しいことをしなさい、と。まさに、それが「フジテレビism」です。世に中でまだ誰もやっていないことを、真っ先にやる-それがフジテレビでしたから。今もそのismは受け継がれてはいますが、こういう時代のせいか、少し雰囲気が変わってきたことも確かでしょうね。

-- 鈴木さんがフジテレビを辞めてフリーになられた背景には、そういう社風の変化があったのですか。

 いいえ、そういうわけではありません。学生のとき、フジテレビの採用面接で、「フジテレビを何かにたとえてください」という問いがありまして、自分は「コカ・コーラ」って答えたんです。「なぜ?」ときかれて、「体に悪いとわかっていても、ついつい手が伸びてしまうものだから」と答え、まぁそこそこウケたんですが(笑)、自分の中では本当に「フジテレビ=コカ・コーラ」というイメージがありまして、だから、40才過ぎてまでコカ・コーラを飲んでいる自分を想像できませんでした。自分の中では、フジテレビって若い人がバンバン活躍する会社というイメージ。20代でどんどん打席に立って、試行錯誤しながら打っていって、凡打もたくさんあるけれど、ときにはホームランも打つ。そして、30代では自分のバッティングを固めて、40代になったら後進に道を譲る…そんなイメージでした。

-- でも、またこうして『ガリレオ』のプロデューサーとして戻ってこられて、数字もしっかり残したわけですよね。フジテレビとしては、やはり、まだまだ鈴木さんには活躍してもらいたいと思っているのではないでしょうか。

 正直、今回の『ガリレオ』も、話をいただいたときは受けるか断るか迷いました。新しいことをやろうと思ってフジテレビを出たのですから。だからこそ、やるからには自分に悔いを残さないよう思いきりやろう、と。数字を当てにいくようなことをせずに、自分のやり方でやろう、と。結果としてそこそこ数字がとれたのは、運も大きいです。6年間、間が空いたのも、結果として奏功しましたが、意図的に6年空けたわけではなく、主役の福山さんのスケジュールがNHKの『龍馬伝』で全くとれなかったことや、制作に不可欠な原作を頂けるまでに時間を要したことなどがあり、たまたま空いてしまったからです。いずれにせよ、数字というのは水物ですから、当てにいって確実にとれるものではありませんので、結局、自分がやりたいと思うことをやるしかありません。

-- 数字に関していえば、昔に比べて今は、いろんな要素が増えて予測しづらくなりましたよね。録画視聴も増えましたし、ソーシャルメディアとの連携も無視できなくなりました。

 おっしゃるとおりです。ドラマでも、コンテンツ自体のクオリティが高い番組が必ずしも高い視聴率をとるとは限らなくなりましたね。半分冗談でよく言われることですが、同じ時間でAというドラマとBというドラマがあり、Aのほうが少しだけ質の高いドラマだとすると、「どちらも見たいから、Aのほうを録画して見よう」となり、視聴率はBの方が高く出てしまうんじゃないかと。妙な話ですが、ドラマとしてのクオリティだけを追求しても、直接数字には反映されないこともあるということ。構成の良し悪しよりも、決め台詞の存在が勝敗を分けたり、そういう小技の積み重ねで数%の上下が起きたりする世界です。 ソーシャルメディアの活用という点では、『ガリレオ』の場合、決め台詞である「実に面白い」が、何時何分に来るかをツィッターなどで知らせるといったことをしました。そうすると、その瞬間の視聴率は多少上がりましたね。ただ、いずれにせよ、小技で稼げるのはせいぜい2~3%でしょう。やはり、大事なのは、企画の部分。企画の芯が多数の方に支持されるようになっていなければ、いくら小技を積み重ねたところで、平均15%を超えるドラマにはなりません。その意味では、ドラマにおける数字は、ある程度、その企画が視聴者に受け入れられているかどうかのレベルを示す指標にはなっていると思います。

-- 本日は、お忙しいなか興味深いお話をいただき、ありがとうございました。

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