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Gプレスインタビュー

2013.April | vol.117

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テレビとスマホの「ちょうどいい」関係。

株式会社バスキュール  代表取締役/クリエイティブディレクター

朴 正義さん

ぼく・まさよし
1967年東京生まれ。言語や世代を超え、多くの人に楽しんでもらえるインタラクティブコンテンツを生み出すことを目標に、2000年にバスキュールを設立。数多くの企業やブランドのデジタルプロモーションを企画し、国際的広告賞を多数受賞している。いつか、百万、千万単位の人々に触れてもらえるコンテンツを生み出したいと、ここ数年は、テレビ×ソーシャル、テレビ×スマートフォンの取り組みに注力している。

テレビとデジタルメディアの融合、連携。それは、インターネットが普及して以来ずっと続いてきた大きな課題。テレビ側、ネット側、それぞれが様々な試行錯誤を行ってきたものの、真に有意義な融合、連携はなかなか実現されなかった。しかし、スマートフォンとソーシャルメディアの登場、普及により、事態は一変。ここ数年で、テレビとデジタルメディアは、急速に接近し「協働」関係を築きはじめ、そこから今までなかった斬新なコンテンツが生み出されつつある。クロスメディアコミュニケーションの先駆者的存在であり、数多くの賞を受賞してきた株式会社バスキュール朴正義さんに、これからのテレビとデジタルメディアの共存共栄について、よみうりテレビプロデューサー西田二郎さんがきいてみた。

 【西田】 私が印象的だったのは、朴さんがある講演か何かで「これからはテレビの時代だ」的なことをおっしゃっていましたよね。「テレビの時代は終わった」と言われることも多いなか、朴さんがそうおっしゃる意図を是非きいてみたいと思いまして。

 【朴】  私は2000年にバスキュールという会社を起こしましたが、当時「テレビを見なくなった若者たちに、PC上でいかに興味をひく広告をつくれるか」をミッションの1つとしていました。まだ世の中はナローバンドで、「ネットで動画を見る」のは一部の層の特別な行為でしたが、当時から、ネットでリッチな(ファイルサイズの大きい)インタラクティブコンテンツを提供することにこだわっていました。

 【西田】 当初、PCでは動画も見れなかった。なのに、一部の若者たちはテレビからネットへ行きましたよね。あの熱狂は何だったんでしょうか。

 【朴】  当時、彼ら彼女らにとって「自分がアクションしたことに反応してくれるメディア」であるだけで、とても斬新だったのだと思います。それまでのメディアにはなかった面白さ。だから私たちも、その斬新さを取り入れたコンテンツを創ることに傾倒しました。でも、技術に依存した見た目だけのギミックの面白さは、そう長くは続きません。次の技術革新がやってきた途端に冷めてしまう。PC上のギミック争いは2006年頃にすでにピークを迎え、若者の多くはいわゆるガラケーでネットライフをすませてしまい、若者のPC人口はすでに伸び悩みはじめていました。

 【西田】 バスキュール社も携帯に向かったんですか?

 【朴】  PCの画面で面白いインタラクティブ体験を提供したいと集まったメンバーだったので、この小さな画面でどうすればいいのか本当に悩みました。そこで突破口にしたのが、当時、黎明期を迎えていたデジタルサイネージです。携帯電話とデジタルサイネージとをつなげたダブルスクリーン企画をその頃から提案していました。デジタルサイネージ上に映し出された池に対して、携帯電話を釣り竿にして魚を釣り上げるというコンテンツをつくったのですが、その仕掛けは国内外で評価をいただくことができました。それが今取り組んでいる、テレビとスマホのダブルスクリーン視聴企画にも繋がっています。

 【西田】 我々テレビ側の者としては、スマホとのダブルスクリーン視聴という新しいスタイルをどうポジティブに活かしていくかが課題です。

 【朴】  スマホの登場は、テレビにとって脅威な面もあると思います。スマホ登場前までは「何かないかな?」と誰もがリモコンを手にしていたのに、今は「みんなどうしてるかな?」とスマホを手にする人が増えています。ただ、別の見方をすれば、大変ポジティブな出来事だと思います。手の届かない未知なる世界や情報に繋げてくれるマスメディアである「テレビ」と、身近で手の届く友達や気になる情報に繋げてくれるパーソナルメディアの「スマホ」とは、相互に「ちょうど補完し合う関係」になれるのではないかと思うからです。スマホの普及により人々は24時間ソーシャルとコネクトしている状態にあるので、そこをうまく使えばテレビのリアルタイム視聴を盛り上げることができ、その先には新たな体験も待っているのではないかと。

 【西田】 実は、私も同じようなことを思っていました。『ダウンタウンDX』のツィッターを3年前から始め、電子番組表《Gガイド》に注目し続けてきたのも、「これからテレビにとって最重要パートナーはスマホだろう」と確信していたからです。

 【朴】  ある意味、必然的な出会いかもしれないですね。西田さんのようなテレビ側の方が「これからのパートナーはスマホだ」と考えたのと同時に、私たちは「これからはモバイルのコミュニケーション力とテレビのコンテンツ力をどう組みあわせられるかがカギだ」と考えたわけです。テレビの凄みは、先ほども申し上げたように、テレビがなければ知ることも出会うこともできない、いわば「簡単に手が届かない」世界や人や情報に出会わせてくれることです。これは、どんなに優れたインフラやデバイスを作る技術をもった会社をしても、一朝一夕にできることではありません。加えて、圧倒的なリーチ力があります。

 【西田】 とはいえ、我々テレビ局は、危機感を持たなければいけません。朴さんの手がけた、サムスン社のスマホを使った映像とかを見ると痛感しますよ、新しいクリエイティブの波が確実に押し寄せてくることを。自分も映像制作をやっていますが、あの映像を見て感激しました。ああいう、メディアに対する柔軟な思考から生まれる新しいクリエイティブワークが、これからどんどん生まれてくるような気がします。我々も、既成の概念やスキームに捉われない番組作りにチャレンジしていかないといけません。

 【朴】  あの映像はユーストリームでの放映で、世界中からかなりの反響がありました。ただ、インフラの限界もあり、たとえばあの映像を1000万人の人に同時に見てもらうことは、まだまだ技術的にも難しいわけです。でも、テレビにはそれができます。ソーシャルメディアとスマホが現れたことによって、テレビとネットはようやく相乗効果のある連携、融合が可能になったといえるのではないでしょうか。そのときカギを握るのは、やはり、企画者、制作者のクリエイティビティだと思います。

 【西田】 まったく同感です。結局は、どれだけ斬新な番組を作れるか-我々はそこができなくなったらおしまいです。テレビ業界においても、キー局かローカル局かとか、ゴールデンか深夜かとか、そういう既存の枠組みや序列が、新しいインフラやデバイスの登場によってどんどん壊れてきています。国境もなくなってきています。これは、別の見方をすれば、これからのテレビ番組作りには今までなかった新しいチャレンジとチャンスが待っているということです。

 【朴】  そうなれば、広告コミュニケーション的にも新しいチャレンジとチャンスが生まれるでしょうね。従来は、ひとつのCMを作ったら、それをどれだけの視聴率の番組でオンエアするかという考え方だったと思いますが、それは「どの枠に乗っかるか」という発想です。しかし、デバイスフリーの時代になればなるほど「どのコンテンツに乗っかるか」という考え方で、コンテンツとリンクした楽しい広告が登場しそうです。

―本日はお忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました。

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