にしだ・じろう
1989年読売テレビ放送株式会社(以下、よみうりテレビ)入社。「11PM」「EXテレビ」を経て1998年制作会社「ワイズビジョン」に出向。あまたの放送局と番組を制作。2002年よみうりテレビに戻り、東京制作局チーフ・プロデューサーとして「ダウンタウンDX」を演出するほか、最近希薄になりつつある人とのつながりをテーマにソーシャルな展開で関西で話題の「ガリゲル」を演出。
テレビがつまらなくなった。「テレビ離れ」という言葉と共に、よく耳にする漠然としたコメントである。実際、テレビ番組一つ一つを見てみると、どれも「よくできている」番組ではある。決して番組の制作クオリティが下がっているわけとは思えない。しかし言い方を変えれば、どれも「同じようによくできている」番組であるともいえる。もし、本当に「テレビがつまらなくなっている」とすれば、原因はどこにあるのか。作る側の問題なのか、見る側の問題なのか。『ダウンタウンDX』等の人気番組をてがけるプロデューサー西田二郎さんに、お話をうかがってみました。
―西田さんからみて、いまのテレビ番組はどのように見えますか。
番組制作者は、「自分の信じているもの、これを世の中に届けたいという強い思いを表現したい」といつも思っています。しかし、実際オンエアされている番組を見ると、そういう作り手の魂や創造性に満ちている番組とそうでない番組があるのは事実。そして、前者の番組ほど数字がとれているかとなると、必ずしもそうではなく、むしろそうでない番組が数字をとっているケースが多いのも現実です。ひと昔前の状況からは大きく変わった点ですね。昔は、作り手が込めた魂やクリエイティビティは、そのまま数字にもはね返ることが多かったのですが、今はそうではない。
―なぜそのように変わってしまったのでしょうか? 作る側の価値観と見る側の価値観が乖離してしまったということでしょうか?
そういうことではないと思います。昔も今も、おもしろいものはおもしろいし、つまらないものはつまらないわけで。ただ、おもしろいかおもしろくないを見きわめる「期間」が極めて短くなったということです。ひと言で言えば、「待つ」ことをしなくなったんです、世の中全体が。番組でもタレントでもそうですが、昔は、その番組やタレントがおもしろいかどうか、今すぐはわからないけど、「なんかよくわからないけど、おもしろい雰囲気あるから、ちょっと様子見てみようか…」という猶予期間みたいなものがありました。「予感を楽しんで待つ」みたいな感覚が。その感覚が、今の時代ものすごく希薄になりましたよね。今は、視聴者もスポンサーも、すぐに結果が出ないと気がすまない。そうなると、番組作り自体も、即効性ばかり追求するようになり、「即数字のとれるキャスティング」に走り、結果、どのチャンネルを見ても同じようなメンバーが同じようなことやっている番組が並んでしまう。悔しいことですが、「テレビがつまらなくなった」という言われても仕方がない状況になってるのかなとも。
―西田さんは、そうではない番組作りを心がけているわけですか?
誤解ないように申し上げますが、私は数字をとることに意味がないとは全く思っていません。むしろ、若いメンバーにも「数字の意識は持て」と言っています。しかし、数字をとるためにいわゆる「最初から数字を当てにいくような」番組作りだけはしてはいけないと思っています。『ダウンタウンDX』でいえば、企画時点で「これは当たる!、数字がとれる!」と思ってやってみるだけでなく、「なんかよくわからないけど、とりあえずやってみよう」という企画の方が当たることが多いような気がします。たとえば、当番組で《芸能人スターの私服》という企画がありますが、あの企画を私が最初出したときに、会議室で全員きょと――ん!でしたから。ダウンタウンも「なんでこんなことやるの? 俺たち服とか興味ないし…」という感じで。でも、やってみたらかつてないほどの数字がとれたんです。
―最初から完成や成功を目指さない番組のほうが、視聴者の心を動かすわけですね。
私はそう思います。むしろ未完成で「穴を視聴者の埋めてもらう」くらいの感覚の方が結果として視聴者はついてくる。しかし、先ほども申し上げましたように「即効性」を求められる現在では、なかなか通用しない考え方でもあります。『ダウンタウンDX』のような20年続く長寿番組ならではの《遊び》のうえでできることかもしれませんが、ただ一つ言えることは、若手に即効性ばかり求めるような業界にはしたくないですね。若い奴が、突拍子もない企画を考えたとします。そこに大人たちが、「こうすれば数字がとれる」といってハサミをばさばさ入れて、結局、元の企画のエッセンスはどこにも残っていないものになる。そして、いざオンエアしたらコケた……そんなことはしょっちゅうあります。同じコケるなら、若手に自由にやらせてコケた方が余程よいわけで。「待つ」ことをしなくなった時代は、若い才能を潰しかねない。そのことで、ますますテレビがつまらなくなっていく。自分で出来る範囲は小さくても、この負の連鎖は何とか食い止めないといけないと思っています。あいつ、へたくそだけど、よくわからないけど、何かありそう……そういう若手の芽を伸ばし、いつの日か「お化け」になる人材を育てたられたらなぁと思っています。
―西田さんが今、局の垣根を超えて、同世代のクリエイターと「未来のテレビ」を語りたいと考えていらっしゃるのも、そういう背景があるわけですね。
はい。こういう時代だからこそ、同世代のみんなで「テレビの未来」を考えるシンポジウムみたいなものできないのかなって思ってるんです。集まればそこから何か生まれないかな?って。多分、みんな考えていること同じじゃないかって思うんですよね。作り手としての守備範囲は狭くてもみんなが集まれば何かを動かす力になるんじゃないかって。Gプレスさん、その時はよろしくおねがいしますよ!!!