2012年、「テレビ」という文化は史上最大規模の変化を迎えようとしている。昨年の地上波放送のデジタル化に伴うテレビのオンライン化により、テレビは「スマートメディア化」し、今までテレビとは縁がなかったインフラやコンテンツと次々と連携していくようになるだろう。この変化の波をどう迎え、どう乗り越え、新たなチャンスを創出していくべきなのか。海の向こうでは、すでにどんな波が起きており、それはどの程度日本に影響を与えるのか。テレビ事情に精通した電通社員のリポートをまとめてみました。 (2012年1月30日 電通ホールでの講演より)
―テレビがスマートメディア化することで、大きく変わることおよび変わらないことは何か。
これからのテレビ視聴スタイルにおける最大の変化は、SNSとの連動視聴でしょう。昨年6月に電通が調査した数字では、21%の人が「ツイッターにテレビ番組に関する内容を書き込んだことがある」と答え、20%の人が「ソーシャルメディアによって番組情報を取得する機会が増加した」と答えています。また、昨年の紅白歌合戦はテレビ離れが懸念された中で視聴率をしっかり取れた背景には、「100万を超えたツイート数」が少なからず影響していました。かつてお茶の間メディアと呼ばれ、「家族で集まってみんなで楽しんでみる」テレビが、これからは「同じ趣味・嗜好の人同士がオンライン上に集まってみんなで楽しむ」ものに変わっていくでしょう。裏返せば、「テレビはみんなで見てこそ楽しいもの」であることは、ずっと変わらないと思います。
―新しいコミュニケーションチャンスの誕生。
テレビとソーシャルメディアの連携によって、テレビ視聴が盛り上がるだけではなく、そこには新しいコミュニケーションチャンスが生まれます。たとえば、TX系列の『ワールド・ビジネス・サテライト』では、オンエア直前にツイッターで呼びかけたり、オンエア中にフェイスブックを通じて視聴者からの質疑を受け付けその場でコメントするといったことに取り組まれていらっしゃいます。そうすることで、見逃し視聴を減らしたり、新たな視聴者を開拓したり、視聴者と番組の絆を強めたりすることに繋がっていきます。このようなソーシャルメディアを介した新しい視聴スタイルをソーシャル・ビ―イングと呼んでいるのですが、これから様々な番組で展開されていくでしょう。
―「テレビ番組」というコンテンツの新しい価値づけ。
テレビ番組の価値は、視聴率が重要な指標であることは変わらないと思うのですが、ソーシャルメディアによって顕在化してきている質的な側面も新しい軸として注目されていくでしょう。これは、テレビだけに限らず、あらゆるメディアやコンテンツの価値を測る考え方に通じることだと思います。「何人が見たか」「何クリックされたか」といったことに加えて「どんな人たちとどんな絆や関係を築くことが出来たか」ということが重要になってくるということ。言い換えれば、コンテンツの新たな「ブランド化」の時代を迎えたといえます。そして、私たちは、放送局と広告クライアントと一緒にそれを作っていく使命があると思っています。
―今年1月にラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)を訪れて感じたこと
CESは、全米家電協会(CEA)が主催し、毎年1月に開かれる家電・情報・通信・エレクトロニクスに関する総合展示会。全世界の主要家電メーカーが集まり、ここに行けば世界の家電市場が見えます。今年のCESを訪れて、感じたことは大きく3つ。「韓国メーカーの存在感」「スマート一色」「自動車の展示」です。
サムソン、LGの韓国2大家電メーカー、展示や広告等あらゆる面で目立っていました。両社とも、超薄型有機ELテレビを展示するなど技術力の高さをアピールしていたのも特徴的で、ひと昔前までの日本のメーカーの存在感がそのまま韓国のメーカーにリプレイスされた感じを受けました。
「スマート」という点において興味深かったのは、各メーカーが独自のポータル保有し、独自のリモコンボタンを持っているメーカーが多数存在していた点です。これは、テレビという端末がもはやテレビ番組を見るためだけの端末ではなくなったことの象徴です。携帯電話がスマートフォンになったことによって、「電話」という機能はごく一部の機能にすぎなくなったのと同じ現象が、テレビでも起きているということです。
3番目に「自動車の展示」ということですが、ここはモーターショー?と思わせるほど、各自動車メーカーがCESに車を展示していました。「スマート化」の余波は、家電の垣根を越えて及んでいる象徴だと思います。
―注目すべき業界動向。
1つは、テレビのスマートメディア化によって、新しいビジネスアライアンスが次々と生まれる点です。たとえば、先ほどリモコンの話をしましたが、アメリカでは「NETFLIX」というVOD会社のボタンがほとんどのリモコンに付いていました。テレビという端末が、コンテンツの総合ポータル化していくことによってこのようなアライアンスはこれからも増えていくでしょう。
また、個人的に思うのは、アップル社とマイクロソフト社の動向には目が離せないと思います。アップル社は従来からCESには不参加、マイクロソフト社も、来年からCESに参加しないことを表明しました。この2社が業界のリーダーであり、技術面でもマーケティング面でも絶大な影響力を持っていることは紛れもない事なので、この2社が不在のCESというイベントが、これからどんな価値をもつのかも注視すべきところです。
気になるテレビ語 groovy word on TV
『韓国』
「韓国」は、1月の検索ログデータで、「AKB」「AKB48」「嵐」に次ぐ第4番目のヒットワード。前月(12月)も同順位と、上位ワードの常連である。つい数年前まで、いわゆる韓国系コンテンツのファンの中心は30代~50代の女性だったが、より若い世代の利用者が多いGガイドの検索ワードにおいても「韓国」がこれほど上位にあることは、韓国系コンテンツが、もはや「AKB48」「嵐」「EXILE」等にならぶ国民的な人気コンテンツであることの証である。ちなみに、韓国では、2009年7月の法改正により新聞社や一般企業の放送事業進出が認められた(それまでは兼業禁止の法規制があった)ため、2012年、韓国テレビ業界は「超多チャンネル化時代」に突入。かつてない大きな変化や新しい文化が生まれるだろうと言われている。このことは、日本のエンタテーメントにどんな影響を及ぼすのか―「韓国」から目が離せない状況は、まだまだ続きそうだ。
『Gガイドモバイル』ユーザ検索ログデータより 集計期間:2012/1/1-1/31