おだ・たえこ
1985年入社。
報道局に配属後、「スーパータイム」ディレクター、社会部記者、ドキュメンタリー制作などを経て
1995年より番組制作セクションに異動。
1999年からは広報局で主にスポーツを担当し、2003年に企業広報に。
2008年広報部長兼広報室長に就任し、番組広報・宣伝の統括となる。
2012年より現職。
かつて、テレビ番組情報メディアといえば、新聞ラテ面やテレビ情報雑誌が主流であり、それらが番組視聴率を大きく左右していた時代があった。しかし、ネットメディアの普及とテレビ視聴スタイルの変化により、状況はここ数年で一変しつつある。今や、ツィッター、フェイスブック、YouTube等の影響力は、無視できないものとなっている。一方で、そういった新しいネットメディアを番組広報ツールとして利用することに、各放送局は慎重な姿勢をとってきた。番組広報という観点から、放送局は新しいメディアとどう向き合っていくべきなのか。株式会社フジテレビジョン広報局長兼広報室長、小田多恵子さんにお話をうかがってみました。
―番組コンテンツをオンラインメディアなどに掲出することに対して、放送局は慎重な姿勢をとられてきました。しかし、ここ最近、状況が少しずつ変わってきたようにも思うのですが、何か変化があったのでしょうか。
私が広報に異動してきた1999年当時は、番組情報の出しどころと言えば、新聞、雑誌といった紙媒体でした。当時すでに、ネットへのコンテンツ展開も行っていた紙媒体もありましたが、私たちはそういうメディアに対して写真や記事を出していくことに非常に慎重でした。そこには、肖像権等の問題もありますが、何より私たちは常にコレクトな情報を世の中に届ける責任と使命をもっておりますから、コレクトな情報とそうでない情報が混在するおそれがあるメディアに自分たちのコンテンツを提供することには慎重にならざるをえません。そのため、よく「放送局にはネットアレルギーがある」と評されたりもしましたが、アレルギーということではなく、異質なメディアとどう付き合っていくのが最善かを「研究する」時間が私たちには必要だったということです。2~3年におよぶ研究と経過観測を重ね、最近になって「こう付き合っていけばよいのではないか」という方向性が少しずつ見えてきました。
―確かに今、番組によっては、ツィッターやフェイスブックを積極的に活用している例も少なくないですね。やはり、それらのメディアがテレビ視聴にとって無視できない存在になってきたということなのでしょうか。
無論それもありますが、とはいえ、やみくもにそういうメディアを活用しているわけではありません。ツィッターやフェイスブックを活用するのが有効な番組とそうではない番組があり、それを見極めた上で展開をしています。また、ツイートする頻度や更新のタイミングも試行錯誤を重ねた上で、現時点で最も適切なものに落ち着いており、どうしたらリアルタイム視聴に結びつくかを一番の課題にまだまだ研究途上にあります。慎重になるのは、SNSの世界では私たちが情報発信した後に世の中のユーザーたちが自由にコミュニケーションを展開していけるメディアであり、たとえば、そこで番組や出演者に対する誹謗中傷が展開されても、私たちが止めることはできません。
SNSは、きちんと活用すれば番組や出演者にとっても大きなプラスになる可能性もある一方、一歩間違えば番組や出演者を傷つけることにもなりかねません。そこに、難しさがあります。
―そういう難しさを抱える中で、どういうときに「うまくいく」のでしょうか?
私は、番組の制作現場がカギだと思っています。たとえば、最近うまくいった例を挙げますと、昨秋の月9ドラマ『私が恋愛できない理由』では、チーフプロデューサーが、自らmixiでコミュ二ティを立ち上げたり、フェイスブックで出演者が役名でツイートするなどの試みで大きな反響を呼び、回を重ねるごとに盛り上がっていきました。こういう成功事例を生みだすのは、プロデューサーの自分の番組に対する思い入れとこうした新しいツールに対する正しい理解に尽きるわけです。広報はその思いに対してより良い結果につながるようできる限りの協力をしていく役割を担っていますが、私たちから制作現場に対して「こういうことをやるとよいと思います」と進言しても、現場に仕掛ける意志がなければ結果何も起こりません。そういう意味では、これからの広報の仕事は制作現場との連携の仕方が重要になると私は考えています。
―最後に私たちが提供している電子番組表(Gガイド)の役割と可能性について、小田さんのお考えをきかせてください。
電子番組表は、SNSとの連携という点でも、現代のテレビ視聴にとっては大きな存在です。SNSで発信される「×月×日×時から放送する××という番組に○○が出演するよ」といったコメントの情報源は、電子番組表に大きく依存します。つまり、「そこに番組に関するコレクトな情報がある」ことが、電子番組表の大きな価値の一つだと思います。その意味では、コレクトな情報を発信しなくてはならない私たちと共通のミッションを持っているわけでして、どうすれば電子番組表をもっとうまく活用できるかをこれから模索していきたいと考えています。
―本日はお忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました。
気になるテレビ語 groovy word on TV
『嵐』
Gガイド検索ログデータにおけるヒットワード上位30を見ると、その7~8割は、タレント実名(ユニット名を含む)だ。デジタル検索による視聴が、「出演者の検索」から行われることが圧倒的に多い証拠である。「嵐」は、「AKB48」らとともに、毎月ヒットワードベスト3の常連ワード。レギュラー番組も多数、2年連続で紅白の司会を務めるなど、今や国民的スターとなった「嵐」がデビューしたのは、1999年。インフラの急速なデジタル化が進み、オンラインコンテンツが急成長し始めた時代である。「芸能界に嵐を起こす」という意味を込めてつけられたといわれるその名の通り、メディアに次々と新しい変化(嵐)が起きていった時代の波に乗って、芸能界に新風を起こす存在となった。トップスターとは、必ずしも才能や努力だけでなれるものではない。その時代特有の何かに後押しされて、階段をかけあがっていく。「嵐」は、デジタル化時代の何かに追い風を得たのかもしれない。
『Gガイドモバイル』ユーザ検索ログデータより 集計期間:2011/12/1-12/31