1958年 愛知県生まれ。
1982年 NHK入局。 函館、東京、大阪でNHKスペシャルなど、主にドキュメンタリー番組の制作を担当。
1997年NHK放送文化研究所へ異動。日本マスコミュニケーション学会マルチメディア部会委員、総務省コンテンツ流通促進室「ローカルコンテンツ研究会」委員、放送総局解説委員室解説委員(専門分野はIT・デジタル)などを歴任。
2009年現職。「デジタル放送~マルチメディア時代のTVはどこへいくのか?」等、多数の著作の他、日米欧の放送デジタル化に関する論文も多数。
放送法に基づきNHKが設立された1950年以来、およそ半世紀にわたり、テレビというメディアへの国民ののべ接触時間は右肩上がりの軌跡を歩んできた。その軌跡が、ここ数年で大きくかわりつつある。いわゆる「テレビばなれ」と呼ばれる現状。民間メディア各社や広告会社が様々な施策を打ち出している中、一昨年VOD事業を始動させたNHKの動向が注目されている。収入源を広告に依存する民放局とは事業モデルが根本的に異なるNHKは今、なにを考え、どのような行動をとろうとしているのか。編成センター、チーフ・ディレクターの鈴木祐司さんにお話をうかがってみました。
―今、NHKでは「接触率の向上」を事業課題に掲げているとききました。
NHKには【3カ年計画】というのがあります。2009年~2011年の3カ年は、「2009年時点で76%だった接触率を80%に上げる」という課題を掲げています。この課題のクリアに向けて私たちは頑張っているわけですが、ここでいう「接触率」とは、番組に関する接触率であって、テレビというメディアの接触率とは異なります。つまり、例えば全体的に視聴率がおちていったとしても、テレビというメディア以外でNHKの番組に接触する人が増え、結果として番組に対する接触率が上がっていけば、それでよいわけです。
「テレビばなれをどうすれば食い止められるか」という議論がよくなされます。
あくまで私見ですが、流れを食い止めるのは難しいと思っています。時代の激しい変化の中、テレビの前で費やす時間が年々減っていっていることは、数字でも明らかです。私はよく、テレビを「ゆっくり下がっていくエレベータ」に喩えます。「テレビばなれ」を食い止めるのに注力した試みは、「下がっていくエレベータの中でジャンプ」するようなものかもしれません。
―だから今、NHKは、テレビ・web・携帯といった「3スクリーンズ展開」を考えているわけですね。
NHKのミッションは、全国遍くに放送コンテンツを届けるという「ユニバーサル・キャスト・サービス」です。言い換えれば、「インフラや端末を問わず、番組コンテンツを全国遍く届けていく」ということ。それが使命であり、義務です。つまり、「放送 = テレビ」という公式が崩れつつある現在、テレビというメディアで放送されるコンテンツであることに固執し過ぎることは、むしろNHKのミッションから外れていくことにもなりかねません。
今、NHKには「老人チャンネル化」という問題があります。10代、20代の若者たちはNHKを見ません。かといって、若者はNHKの番組が嫌いかというそういうことではなく、テレビという箱の前にいる時間が短くなっているだけです。であれば、彼らの接触するメディアに番組コンテンツを露出していくことに積極的に取り組まねばなりません。
―最近では、少し前までは考えられなかったような映像配信サービスを展開していますよね。
2008年12月1日にスタートしたNHKオンデマンド―VOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスを立ち上げた背景には、「タイムシフト視聴」「ダイジェスト視聴」といった新しい視聴スタイルが世の中にすっかり定着しているのだから、それに対応するサービスを提供することは、ユニバーサル・キャストをミッションとするNHKの使命であるという考えがありました。
今放映中のドラマ『八日目の蝉』は、毎回放映後に5分のダイジェスト映像を、NHKのホームページとGyaO!で無料配信しています。NHKのホームページに来る人は、既にNHKの視聴者です。NHKに興味のない世代や層へも、番組情報が届くことが大切であると申しました。GyaO!でも配信することで、視聴率や接触率の向上に貢献していると思います。
―コンテンツに対する考え方、作り方は変わってきたのでしょうか?
そうですね。放映の考え方同様、番組の作り方も少しずつ変わってきています。
たとえば、前述のドラマ『八日目の蝉』は、ネットでの配信を前提に、キャストの方々の所属事務所ともすべて事前に了解をとって制作をしています。番組コンテンツをweb等で配信する際に、今まで大きな壁となっていた権利関係がクリアになっているのです。
また、ひとつの番組でも、10代にも届くような5分版、興味を持った層への30分版、深く知りたい層への60分版といったようなバージョンを作ったり、色々なメディアに露出していく必要もあるでしょう。情報を遍く全国に届けられるよう、今後このような、今まであまりなかったスタイルの制作スキーム、放映の考え方に基づいた番組は増えていくでしょうし、増やしていくべきだと思っています。
―本日はお忙しいなか、興味深いお話をありがとうございました。
気になるテレビ語 groovy word on TV 『忍たま乱太郎』
今回のテレビ語は、【忍たま】の略称で親しまれているNHKの長寿アニメ番組【忍たま乱太郎】を紹介いたします。乱太郎、しんベエ、きり丸の三人が、忍術学園で一人前の忍者になるため切磋琢磨していくという物語。この春から18期目の放送が開始され、「一体いつになったら忍術学園を卒業するの?」と思ったり、思わなかったり…。【忍たま】の3月の検索数は6,923で、ランキングは58位。2月の4,277(85位)からアップしています。
この検索数アップの要因には【主題歌】が関係しているのではないでしょうか。放送開始当時の1993年(1期)に主題歌を歌っていたのが、ローラースケートで一世を風靡したスーパーアイドルグループ【光GENJI】。1994~2001年(2~9期)まで【光GENJI SUPER 5】、2002~2008年(10~16期)までが【Ya-Ya-yah】、2009年(17期)が【Hey!Say!JUMP】。そして、今年からは【NYC】。この美しきジャニーズの系譜。検索数が常に高いのは、このジャニーズパワーの継承も、一役買っているのではないでしょうか。ちなみに主題歌【100%勇気】も、それぞれのグループが歌うバージョンで、継承されています。
『Gガイドモバイル』ユーザ検索ログデータより 集計期間:2010/3/1-3/31