広告メディアのデジタル化に伴い、ここ数年、CMの制作現場では大きな変化が起きている。かつは、CMといえばテレビCMであり、つまりテレビというメディアでオンエアされることが前提にあったが、今は違う。インターネットをはじめとするメディアが多様化することで、CMそのものの価値から、制作コストや制作プロセスに対する考え方まで、さまざまなことが大きく変わりつつある。そんな激動の時代、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』等で広告と映像の新しい関係作りをいち早く模索してきた、株式会社ロボット。阿部秀司代表取締役社長に、これからの広告制作、映像制作等についてお話をうかがってみました。
ここ数年の間で、CM制作の現場はさまざまな変化がありましたよね。たとえば、CMの制作コストが削減傾向にある中、プロダクションとしては新たなコンテンツ制作を模索していかなくてはいけない時代に入ったのではという見方もありますが。
おっしゃるとおりで、この5年ほどは激変の時代、そしてこの1~2年でさらに激変していくでしょうね。CMの制作コストが削減されていくことは、事実、たいへん厳しいことでありますが、それは時代の流れとして止められないことでもありますから、私たちとしては、知恵を絞り工夫をこらすことで、コストを下げてもクオリティを落とさないようがんばっていくしかありません。ただ、明らかに、デジタル化により<感覚の歪み>的なことが起きていることも事実でうね。たとえば、今までは35mmフィルムを使って作っていたものが、映像機器がデジタル化されることによって大幅に制作コストが削減されるといった誤解を持たれている方もまだいらっしゃいます。また、根本的なことを申し上げれば、インターネットの台頭によりメディアコストへの意識が大きく変化したことが、<感覚の歪み>の要因になっていると思います。つまり、今まではCMという<上モノ>を流すためにはメディア費という巨額の、例えれば<土地代>が必要だったわけですが、インターネットではその土地代が殆どかかりません。田園調布などの高級住宅地に、数百万円のプレハブを建てる人はいませんが、それほど高くない価格の土地ですと、そこに建てる建物に数千万円もかけなくていいのではないか・・・という考え方も生まれてしまいます。
つまり、メディアの価格破壊に連動してコンテンツの価格破壊まで起きてしまっていることに対する危惧ですよね。たとえばインタネットのような画期的なメディアが台頭すると、旧来のメディアに価格破壊が起きるのは必然かもしれませんが、コンテンツではそうはいきませんよね。
そうなんです。やはり、いいものあ時代やメディアに左右されずいいし、よくないものはよくない。コンテンツとは、紙と鉛筆さえあればできるもの。その出口がどんなメディアかに左右されるものではありません。この前、自分30年位前に作った作品をあらためて見てみたんですが、制作プロセスも映像クオリティも今とは全く異なりますが、本質的な表現は変わっていない。やはりいいものはいいんですよ。スタッフ全員が一丸となって手を抜かず丁寧に作ったものは、いい。要するに「プロダクト」というのは、ごまかしがきかない。だから、どうしても、費やした人的、資金的コストに比例してしまう。そこが、メディアにおける価値と価格の関係とは根本的に異なるところでしょうね。
御社が制作された映画「ALWAYS 三丁目の夕日」などは、広告要素を上手にビルトインしながら、作品としても素晴らしいものに仕上げ、広告と映画の融合、いわゆる「ブランデッド・エンタテイメント」の成功事例だと思います。御社は、最初からそういう映像を作ろうという計画をもっておられたのですか。
計画なんてありません(笑)、そもそも映画って、計画的に成功させようと思って成功できるものではないですし。どこかでギャンブルですから、運とかもありますよね。ただ、それをできる限りギャンブルにしないやり方はあるわけでして、岩井俊二監督と作った『Love Letter』以来ずっとそれを追求してきたことは確かです。その追求の中で、「広告がビルトインされて作られる映画もありなのではないか」という考えに至っただけでして、最初から「ブランデッド・エンターテイメントを目指そう」といって作られたコンテンツはありません。
新しい広告手法として、<ブランデッド・エンターテイメント>という考え方のコンテンツは、これからも増えていくのでしょうか。
いや、そう簡単にはいかないでしょうね。問題は、やはり「それで収支がきちんと作れるのか」ということ。今はまだそこの糸口が見えていないので、「面白そう」「そういうことできたいいね」という<憧れのコンテンツ>止まりであって、<普及していくコンテンツ>には至るのが難しい。その糸口を見つけるためには、もうひとつの掛け算が必要だと思っています。広告クライアントや広告代理店がもっと密に連携し、かつてないシナジーを生んでいく新しいしくみを作ることが必要。これから私が取り組もうとしていることの一つです。
本日は、たいへん興味深いお話をありがとうございました。