簡単な操作でコンマ何秒の間に関連性の高い検索結果が得られる世界最大の無料検索エンジンとして、またたく間に世界を席巻した『Google』。創設者のラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏は、その企業使命を《独自の検索エンジンにより、世界中の情報を体系化し、アクセス可能で有益なものにすること》と定めている。IT社会に、さまざまな新しい価値を提供し、各ビジネスに衝撃を与えつづけてきたGoogle。そのひとつである「広告ビジネス」について、グーグル株式会社、佐藤康夫執行役員にうかがってみました。
―広告についての話をうかがう前に、Google という 企業が最近お考えになっていることについて、お話 いただけますか。
「最近考えていること」ですか・・・難しい質問ですね(笑)。 といいますのは、私たちは、創業以来考えていることは変わっていません。<<世界中の情報をオーガナイズして、 世界中の人々に届ける>>ことが、私たちの不変のミッションです。多くの人々が、インターネットを使って、必要な 情報を探しています。私たちは、コンマ何秒でも早く、その人に最適な情報を届けるための技術を革新し続け、でき るだけ多くのパートナーやユーザとシェアしたいと思って います。 ときどき、Google は世界最大の情報メディアだとおっしゃ るかたもいるのですが、私たちは「テクノロジーを提供する会社」であると考えていただくのが、もっとも本質的な 理解のされ方であると思います。
―その中で、広告というビジネスは、どのような位 置づけにあるのでしょうか。
答えはシンプルでして、<<世界中の情報をオーガナイズ して、世界中の人々に届ける>>というミッションのひと つです。Google はテクノロジーを提供する企業であり、 情報配信ネットワークです。ユーザやパートナーのみなさまが情報をやり取りする際に、広告も情報のひとつとして、 必要な人から必要な人にできるだけ早く届ける。そのためのテクノロジーの向上とネットワークの拡大こそ、私たち の広告ビジネスです。
―ということは、広告に限らず、すべてのビジネス はそのミッションのもとにある。
そのとおりです。検索エンジンはもちろん、最近非常に多 くのユーザにご利用いただいているGmail や、Google Earth、Google マップなど、提供しているサービスすべ て、そのミッションがベースに あります。Gmai l には検索機 能がついていて、ユーザ自身のメールボックスの中から必要な情 報を探すことができますし、また、メールの 内容を機械が読んで、それに連動した 広告が表示されます。
―Google における広告は、掲載の場所や機会が完全 にユーザオリエンテッドに決められていくという点で、 テレビや新聞とは根本的に異なる構造をもっている といえますね。
おっしゃるとおりです。私たちの広告は、「いついつここ にこういうメッセージを出したい」という〈広告主のリクエスト〉を前提としたビジネスモデルではありません。あ くまでも〈ユーザが求める情報〉が前提にあります。そもそも、私たちが提供しているサービスは、「ユーザの意思」 が最初にあって初めて成立するものです。ユーザの意思が何もなければ、何もない何も語らない「真っ白な箱」にす ぎません。ユーザがひとたび「ラーメン」とという意思表示をした途端に、そこから膨大な情報のダイアローグが始 まるのです。「Google の考える広告は、テレビや新聞といったマスメディアの広告と何がどう違うのですか?」といっ た質問をときどき受けたりするのですが、コミュニケーションの出発点が違う、すなわち前提が違うので、ある意味コ メントのしようがありません。テレビや新聞の場合、広告主から対話を始めますが、私たちの場合ユーザから対話を 始めます。コミュニケーションの構造が根本的にちがうの です。
―コミュニケーションの出発点をユーザに置いているという点は、ある意味、これからの広告ビジネス の本質でもあります。またインターネットの場合、 広告の効果測定がきめ細かくできるといったクライアントメリットもあります。これは、広告業界にとっ ては衝撃的なことだと思いますが。
誤解していただきたくないのは、私たちは広告ビジネスを 遂行することをミッションとした会社ではないということです。《その人が求める最適な情報に、いかに早くストレ スなく到達できるか》を実現する会社です。だから、私たちのしくみの中では、広告主が自分たちの商品のことを伝 えたいとどんなに望んでも、ヒット数が低ければその広告のユーザにとっての価値が低いとみなされ、広告の掲載位 置は下がります。そして、その逆もしかりです。このしくみが、結果として、ユーザに対して「欲しい情報がストレ スなく手に入る」というメリットを生むと同時に、広告主に対して「広告の効果と広告料金と連動しているため、投 資しやすい」というメリットを生んでいる、ということです。つまり、私たちには、《ユーザと情報を最も健全につ なぐこと》に専心しているにすぎません。
―なるほど。ということは、広告会社にとって〈脅威〉 という存在ではなく、共存共栄していく企業と考え てよいのでしようか。
そのとおりです。ときどき〈敵対的な存在〉であるかのよ うに言われたりもしますが、私たちには、そういった意識はまったくありません。極めてフレンドリーです(笑)。「ど うぞ、ご自由に使ってください」と。ただ、ある特定の広告会社とだけ独占的に提携、といったことはしません。私 たちのミッションと方向性が違うことですから。また、ときどき「何を売る会社なのか」といった視点でお話しされ るかたもいらっしゃるのですが、私たちに〈売るもの〉はありません。冒頭でも申し上げましたように、Google は、 〈メディア〉ではなく、ネット上の〈しくみ〉ですから。