• シェイク!Vol.5 長く愛されるコンテンツとは?(2)<br>藤村忠寿(水曜どうでしょう)×佐藤尚之(さとなお)×林雄司(デイリーポータルZ)

シェイク!Vol.5 長く愛されるコンテンツとは?(2)
藤村忠寿(水曜どうでしょう)×佐藤尚之(さとなお)×林雄司(デイリーポータルZ)

シェイク!Vol.5 「長く愛されるコンテンツとは?」のトークセッションの模様の2回目。
今回は「続けるコツは社内でうまくやること?」な話で盛り上がったことを中心にお届けする。

続けるコツは社内でうまくやること?

藤村

林さんも20年間コンテンツを作り続けていますが、長く愛されるということに対してどう思いますか?

答えになるかどうか分かりませんが、20年やってきて大概のクレームは予想がつくようになりました(笑) 愛されるコンテンツとは違うかもしれませんが、クレームでいうと危ないなって思う記事にはやっぱりクレームが来るんです。でも、危なすぎると来ないんですよ。例えば、記者がハブを食べてる記事※があって、そこまでヤバいとクレームは来ないんです。中途半端な危険さが一番クレームになりますね。インターネット上には「これは危ない」って言いたい人がいるんですけど、ハブを食べると危ないってことは分かりきっているからクレームにならない。

『デイリーポータルZ』2013年5月14日 ハブを食べる

佐藤

『デイリーポータルZ』は独特のふざけ方ですよね。林さんを見てると「俺も生きてていいんだ」って思います(笑) 「こういうことを面白がっていいんだ」みたいな。

「うまいことやる方法はないか」。ぼくの大体の発想はそこから来ています。「人生は太く短く」とか「細く長く」とか言いますけど、そうじゃなくて「太く長く」ってあるんじゃないかって考え方。全ての根本はそこですね。

藤村

林さんに初めてお会いしたのは2年か3年前ですかね。その時に思ったのが「この人が生きられない世界になったらダメだ」と思ったの。

佐藤

カナリヤみたいな感じ?

※ 鉱山のカナリア。鉱山でガスが噴出するとカナリアは失神して止まり木から落ちる。それを見た鉱夫は坑道から地上に避難する。危険感知器。

藤村

そんな感じ。 ふざけたカナリアなんだけども。こういう人が許容されない社会になっちゃうと多分その社会は駄目になる。だからこの人くらいはちゃんと残しておかないといけない。こういう人種を残しておかないと多分社会っていうのはうまく機能しない。

ニフティが『デイリーポータルZ』を残してる理由に近いかも。新しい役員が来て「あれだめじゃん」って言っても野暮みたいな雰囲気があります。 役員がそう言うと「ああいうの俺好きだよ」って他のみんなが言ってくれる。そこで、僕もその役員には「真面目にやっているんです」って言って「生意気じゃないですよ」ってしてあげる。そういう活動ですね。

藤村

それが太く長く生きる秘訣ですか

愛されるコンテンツですね(笑) 

藤村

社内で上手くやっていくっていうことですね。

長く愛されるための水戸黄門理論

藤村

『水曜どうでしょう』は96年に始まったときから長く続けるって事が目標だったんですよ。

作るときに何が一番強いコンテンツなのかって事を早い時期から考えていて、結局、一番強いのは水戸黄門だろうと。話の筋なんかみんな分かってるけど印籠を出せばみんな喜ぶ。それの何が最強かというと作るほうに手間がない。考える必要がないし見ている方もあまり考える必要がない。

水戸黄門の発想が『水曜どうでしょう』にはすごくあります。最強のコンテンツは見る方との馴れ合いと言ったら言葉遣いは悪いんですが、視聴者が安心して番組を観ることができるような関係性。それが一番強い。

作る方に手間がないという意味では、どうすれば楽できるのかを常に考えています。『水曜どうでしょう』の一番初めの企画はサイコロ企画※ですが、これが始めからウケたんです。だから、良いじゃないかっていって視聴者が飽きるまでサイコロ企画だけで6回もやりましたからね。

※ サイコロの出た目に応じて目的地に移動する。宿泊の目が出なければずっと移動し続けなければならない過酷な企画。

佐藤

そういう考え方は大事ですよね。

藤村

ところがぼくらも同じことをやっていると飽きてきて6回目にはもう完全に飽きちゃった。ただ、その頃になると視聴者が水戸黄門化してきたのか「またサイコロやってください」みたいなコメントが必ず来るんです。「同じ企画で楽だし7回目8回目もやろう」となるのが普通の考え方だと思いますが僕らはやらなかった。

なぜかって、飽きているのに続けていたら作っているほうが辛くなってくるじゃないですか。これが一番きついですから。そうやっていく中で分かったのは結局、視聴者の声は聞かないのが一番楽なんだということ。でも、視聴者が「これは面白かった」っていう意見だけは吸い取りますよ(笑)

4人でずっとやってる番組なので劇的に変わるなんていうことはないんです。それは自分たちで認めるとして、でも逆にどこに行っても同じ事やるっていうことを視聴者に刷り込んでいけば、我々がやることがサイコロだろうが釣りだろうがあまり変わらない。視聴者との間でそういう関係性ができた時点で最強の人に見てもらえるコンテンツなのではないかと思います。

ローカル局からスタートしたことも大きいでしょうね。もともと全国相手にしているものではないし、あまり広がらなくてもいいっていう発想も最初からあったので。

佐藤

北海道ローカルということは大きかったと思いますね。林さんのもそうだけれど、『水曜どうでしょう』にはいい意味で隙があって、情けないところがあって、視聴者が藤村さんたちを応援できる部分がある。なんか応援したくなる。それってキー局と違う北海道の番組だからこそそういう気持ちになれる部分があると思います。

藤村

だってこう、ロケ行ったときに許可とったことないですもん。フジテレビだったらできませんよ。 うちの場合どうせ誰も見ていないだろうと思って(笑)

許可取っていないんですね。デイリーは許可とらなくていいところを選んでます

藤村

デイリーの場合は許可とったら逆にやらせてもらえませんよ。

オプトイン方式。何か言われたら謝る(笑)

藤村

謝ったらたいてい丸く収まりますね。北海道の中だけでやっていることなんで。それに全国テレビだったらなるべく有名なタレントを使って新しくしていかなきゃいけないみたいな流れがずっとありますが、対して『水曜どうでしょう』はずっと同じことをやっている。水戸黄門の論理からすると非常に良いと思います。

新しいことは逆にしない方がいいみたいなこと。それが自分の中では長く愛されることだと。長くやれるということは愛してくれるお客さんよりも、実は作り手のモチベーション、作り手がどれだけ楽にできるかということが一番大事だということは僕の中ではずっと思っています。

例えば、『水曜どうでしょう』も1996年から 2002年までの6年間ずっとレギュラーでやりましたが、なぜやめたのかというとずっと続けていたらどこかで疲れちゃうなと思ったからです。それなら1年に1回やりましょうと、実際にやってみたら1年に1回も疲れるってことになって、 3年に1回、4年に1回になって。疲れないから長く続けられるところはあります。

佐藤

そういう等身大というかワガママっぽいところはこちらにもいい意味で伝わってきていますね。僕はあまり番組のDVDとか買わないんですけれど、北海道テレビとか藤村さんには「応援的な意味で少しお金を落とした方がいいんじゃないか」くらいのことを思って買ったりします(笑) これがフジテレビとかTBSだったら多分買っていないんです。そういうことを最近では「応援消費」とか「ストーリー消費」とか言いますけど、その応援感が特に『水曜どうでしょう』にはありますね。

「長く愛されるのは時代に乗った人ではない」へつづく

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