• シェイク!Vol.18 どうしたら作れる、面白い企画 4th(5)<br>伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.18 どうしたら作れる、面白い企画 4th(5)
伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

連載最後は、皆さんそれぞれの仕事観の話題から。なぜその仕事を今やっているのか?という素朴な疑問を掘り下げる。その中で世界を変えたくない。という意見といや世界を変えたい。という意見がぶつかる。さらにローカル局はどうすれば生き残れるのか?という質問にも真摯に答える最終回。

世界を変える方法、あるいは変えずに続ける方法

伊藤

二人に聞いてみたかったんです。 なにがしたくてその仕事してるんですか? こんな質問おかしいかな。

佐藤

いやいや分かりますよ。いまの仕事をやっている理由ですよね。

伊藤

理由とか、使命とか、進みたい方向とか。

佐藤

ちょっとだけ新しいものを、たくさん、ずっと作っていくのが目標です。野球でいうと、ホームランを打つよりも、イチローみたいに安打をたくさん打つみたいな。それが自分にとって価値があることなんです。そのためにどうしたらいいか考えています。発表する場所がネットであることにこだわりはなくて、たまたまいまはそこが合っている。いつか自分が寝たきりになったりしたら、寝たきりの人にしかできないものを作ります。いまの自分ができることをやっていこうっていう意識はありますね。

伊藤

楽しい?

佐藤

楽しいです。ぼく、いま会社をやってますけど、「世界を変えない!だけど「新しい表現づくり」に特化した会社。」と謳って人材募集をしました。

伊藤

おれたちは世界を変えない! 世界を変えちゃったらクビ!(場内笑)。

佐藤

採用面接には、やっぱり世界を変えない人が来ましたね(笑)。

伊藤

ぼくはぜんぜん、考えとかなかったんですよ。テレビがすごい好きとか、こだわって作ってるとか、お笑い芸人さんがすごく好きとか、そういうのはないってずっと言ってたんですけど。でも、最近ちょっと考えるようになって。

佐藤

自分はなぜテレビ番組を作っているのかを?

伊藤

はい。40越えたあたりから、いまのテレビをこどもはどう思って見てるんだろうっていうのが気になってきて。自分たちが飯を食うために、視聴率を上げようと、手を変え品を変えいろいろやっています。優秀なマーケテイング部が「お笑いはダメだ」って言ったとしたら、やらないって選択肢になるんですね。でも、やらなくていいんでしょうか? テレビって見た人が影響されますよね。たとえば、お笑い好きじゃなかったけど、ある日たまたまテレビで見たコントが長くて15分あった。表情と音楽だけで、オチまでひとことも喋らない。でも、最後まで見たらめっちゃ面白かった。これってその子のためになると思うんです。長いコントは視聴率取れません。お金もかかります。じゃあなくていいんですか? と。商業主義に走ってやらないのは、結局日本人のためにならない。テレビマンとして、少なくともエンターテイメントをやる人は、日本人のために仕事をしないといけないんじゃないかなって考えるようになりました。

米光

ぼくも、こどものころと変わらずずーっと遊んでただけで、なんも考えてなかったんですけど、長年やってきていま思っているのは、ねじくんと逆のことなんです。

佐藤

ほう。

米光

ぼく、世界変えたい。

佐藤

え、そうなんですか!?

米光

ぼく世界変えたい奴なんす〜(ジェスチャーで煙草を吸いだす)。

伊藤

ヘモグロビンで?

米光

ヘモグロビンで! 現実の世界のルールをちょっと変えることでその場の状況をがらっと変えたい。日大アメフト部事件もね、監督を変えろとか、日大の体質を変えろとか、いろいろ言われてますけど、アメフトのルールを変えたら解決できるんじゃないか。

伊藤

なるほど。

米光

どういうルールにしたらいいだろうってずーっと考えてる。メンバーチェンジとセットプレイがよくないんじゃないかなーとか。って、そこまで詳しくないから、あんまり言うと怒られそう。あくまでこどもの妄想です。

佐藤

ゲームクリエイターの視点ですよね。

米光

ルールを3つくらい替えたら、あんなことが起きないかもしれない。

佐藤

羽生さんが、AIに将棋を完全解明されたらどうしますかって聞かれて、「そのときは桂馬が横に飛ぶとかルールを少しだけ変えればいいんです」って言ってました。

伊藤

もっと話していたいのですが、そろそろ時間です。質問コーナーに行きましょう。

客席 A

千葉テレビの者です。ローカル局は何をしていったら生き残れますか?

伊藤

強烈なパワーを発するような番組が増えることだとは思いますね。関東のクオリティに負けないっていう感性でやっている方もいますよね。たとえば「水曜どうでしょう」のディレクター藤村さんは、思いっきりフルスイングで野心的に作っている。昨日大阪の読売テレビに行ったときに、ものすごい偉そうな2年目の男の子がいたんです。「おれってー、フェイクドキュメント好きなんでー、テレ東さん受けたけど落ちちゃったんすー。「勇者ヨシヒコ」いいっすよねー」みたいな。

佐藤

視点が高めですね。

伊藤

こいつすげー面白いなーと思って。彼には読売テレビでできるフェイクドキュメントを突き詰めてもらいたい。他に、ものすごい泣く2年目の女の子もいて。「情報ワイドやってるけど、別にやりたい仕事じゃないんです」って言う。「ローカルでは結局こういうのがいちばん受けるんですよ」って話も聞くけど、ほんとにそうなんだろうかってそこは考えちゃいますね。やっぱりものすごいパワーを感じる金のかかってないローカル番組を多く作られたほうがいいと思います。

客席 A

チバテレ開局45周年記念で、千葉の英雄・JAGUARさんの番組を復活させたら話題になりました。JAGUARさんはJAGUAR星出身というロックミュージシャンで、自分でチバテレの放送枠を買って10年以上番組を放送していた変わった方なんです。自分で歌って録って編集して、自分でビデオを持ってくる。それを流してました。

伊藤

いいですね。

客席 A

自分たちがこれまで想定していなかったものが、案外財産なのかもしれない。そう気づかされました。

米光

この間母親が倒れたので、広島にひさしぶりに戻ったんですよ。で、実家でテレビを見ていて、思った。若いころ見ていた番組をもっかい見たい。再放送やってくんないかなーって強烈に思った。単純に自分の欲望を言ってますけど、いろんな番組の再放送をやる枠があったら帰郷した人が見ると思う。今の自分と20年前の自分がシンクロする感動ってなかなか味わえないから。

佐藤

たとえばネットとか、他業種の人と組んでみるのはどうでしょう。AbemaTV以外にも、他の成功のパターンってあると思う。組みたい人はたくさんいるだろうし、ローカル局こそいろいろチャレンジしてほしいです。

伊藤

テレビはもうだいたいやり尽くしてますけど、そこで探すことをやめちゃうとテレビはいらなくなっていく。ローカル局こそ創造的な番組が作れる気がします。

佐藤

まだまだあるってぼくも思っています。もうやり尽くされたよー、もうないよーっていうなかで、「まだある!」と提示するのは痛快です

米光

まだまだあるよねー。

伊藤

自信と覚悟を持ってやっていきましょう。

[ 完 ]

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