Gプレス
シェイク!Vol.16 「境界線を越える仕事」(2)
後藤繁雄(クリエイティブディレクター)×草彅洋平(東京ピストル代表取締役社長)×ターニャ (谷生俊美)(日本テレビ)
この回のキーワードは、”モルモット”に”快楽主義”。後藤繁雄さんが語るその真意とは?
そして他人と違うコンプレックスはどう克服するのか。短い言葉の中に凝縮された回。
自分を実験動物にして生きる
編集者っていろんなタイプの人がいると思うんだけど、自分を実験動物にして生きるって考え方が好きなんです。自分はモルモットなんだよね。
モルモットですか。
モルモットですよ! モルモットの自分にいろんなことをやらせてみて、どういう経験するかをレポートして編集するっていうのがいちばん面白いと思っています。
なるほど。
人生は一回ですから!
そうですね。
ぼくは人間としてはレールから外れてるし、落ちこぼれだし、野良犬のようなもの。でも、仕事は資本主義のど真ん中でしてないと嫌なんです。よくはずれてる人いるでしょう。
ああ、メジャーではなくアングラで活躍する、みたいな。
そういうのは嫌いですね。
商業主義のなかで成功をおさめて、かつエッジの効いたものがやりたいってことですよね。わかります。
だからぼく、おととしまでは表参道ヒルズの4階に住んでいたんです。
え、あそこに!?
お金の匂いがしますね。
うん。
あそこって人住めるんだ……。
今は東京と浜松と京都に家を買って。
多拠点生活、おしゃれですよねー。
そうやってうろうろしています。それも実験だよね。
関西で変な人のことを総称して「へんこ」って言うんです。「谷生、へんこやん」って、中高のときけっこう言われてました。思春期ってね、そういう扱いをされると、傷つくじゃないですか。
ぼくも子供のとき吃音だったから、ガールフレンドに電話するのは二十歳までできませんでした。
でも、あるとき気づいたんです。変って言われるのはいいことだと。変は個性であり特長だから。ティム・バートン監督の映画『アリス・イン・ワンダーランド』のなかで、「私って変なの?」と聞くアリスに、アリスのお父さんは「優れた人はみな少し変なんだよ」と返すんです。お話を伺うかぎり、たぶん後藤さんも変だと思うんですけど。
うん、変だと思いますね。寂しいと思ったことがあんまりないですね。植物とか動物とか石とか、人間じゃないたくさんの友達がいるから。
なるほど。それはわからない(笑)。
でもそう思わないですか? でないと寂しいじゃないよ(ターニャさんに近づく)。
その近づき方が寂しがりやみたい。
ぼくは変な人が好きなんです。ラブリーな人が多いでしょう。
人にどう見られるかは関係ない。自分の幸せの最大化が人生の目的です。そう決めてから迷わなくなりました。
うんうん。あと、快楽主義であることも重要だと思います。ぼくより上の世代の編集者って、団塊の世代だからヒロイックな方が多いです。根性とか英雄とかイデオロギーが好き。ぼくはそういうマッチョなのが嫌いで、快楽主義が好き。快楽主義で行こうと思っています。
行きたいっすねー。
行きましょう。でも日本ってやっぱり同質化圧力が強い。人と同じであることを求められがちです。それはちょっと不自由でもありますよね。
自分の頭で考えていることよりも、世界のほうが、どう考えても大きいわけですよね。自分なんて知れてるわけだから。ぼくは20代で講談社の『art japanesque』を編集して、フリーになってからは人類学者の中沢新一と本を作ったり、YMOがちょうど解散したから、細野晴臣の本を編集したり。運がよくて、いろいろな仕事ができたけど、それでも不満がありました。それで、自分の輪郭を広げようと思って、世界中に調査に行く広報の仕事を作って、ホンマタカシや大森克己のような、今でこそ有名になった写真家といっしょに撮影をしに行って、写真集も作ったんです。
へえー。
そのときは、ふつうの雑誌だったら行かせてくれないような、アルメニアやアフガニスタンも行けました。そうすると、自分のイメージVS世界だからさ、面白いわけです。そうやってどんどん実験すればいいんだと思いますね。