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シェイク!Vol.15 「ここが変だよバリアフリー ~障がい者とメディアの距離感と手ざわり~」(4)
空門勇魚(NHK制作局第1制作センター青少年・教育番組部ディレクター)×ライラ・カセム(デザイナー・大学研究員)×森永 真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)
異なる業種で活躍する3人がそれぞれの視点で語り合い、新たな価値観を生み出すヒントを見つけるトークセッション「シェイク!」。連載4回目は、障がい者と笑いについて考える回になった。
障がい者を笑うのは不謹慎なのか?
さきほどの大運動会はめっちゃ面白かったんですけど、笑うと不謹慎だって怒る人も出てきそうですよね。それはどうなんですか? 笑ってくれてかまわないのか。
『バリバラ』をやるときにひとつ「自分から笑かしにいってることについてのみ取り上げよう」ってルールを設定しました。たとえば、ライラさんを例に出して申し訳ないんですけど。
うん。
入場したときに、よろよろしながら歩いてましたけど、それを笑うのは絶対にやめようっていう。その人の特徴や容姿を笑うのはただの差別です。でも、ライラさんが、自分の特徴を生かしながら「酔っ払いの真似をしてます」って、自分からネタをぶっこんで来たら笑っていい。その人が笑かしたいと思ってやってることだから。
そうだね。自虐ネタを笑ってくれないと、あれ、スベっちゃた? ってなりますよね。
笑いのハードルはやっぱり高いかんじします?
R-1ぐらんぷりで目の見えない方が決勝に進出しましたね。
濱田祐太郎さんですね。
彼にしか言えないジョークが出てくると思う。
決勝に出るくらいだから面白いんだろうなと期待しています。でも、日本だと慣れてない人が引いちゃって、これほんとに笑っていいんだろうかと構えちゃう可能性があるのかな。
フラットに見てもらえないという心配はありますよね。とはいえ、障がいがある人でも面白い人とつまらない人がいるわけだから、障がい者の芸人だからってめっちゃ面白いとは限らないですし。
でも、R-1ぐらんぷりの決勝に残ったのはすごくうれしい。こっちとしては期待をしてて。来週でしたっけ。結果にねえ、めっちゃドキドキしてるんですよ。ここでスベるとまた逆戻りするから。
そうそう! その緊張感はある。
やっぱ「障がい者の笑いって、こんなもんなのね」って思われたらアウトや。『バリバラ』でも、SHOW-1グランプリっていう、障がい者の芸人を集めてナンバーワンを決めようっていうイベントがあります。その一回目に優勝した、脳性マヒブラザースというお笑いコンビのネタ、見ます? これ見てみなさんどう思うかですよね。
動画 内容紹介
「コント・お医者さん」
医者は車椅子に座っている。患者はよろよろ歩いてくる。
「体調が悪いんですよ。たぶん風邪だと思うんですね」
「あー風邪ねえ。で、症状は?」
「手が動かない。体も震える。うまく喋れない」
「わかりました、あなた、風邪じゃなくて脳性麻痺ですね」
「いやいや風邪だと思いますけど」
「その症状はいつからですか?」
「はい。子どもの頃から」
「絶対、脳性麻痺です」
「風邪だと思います」
「いや脳性麻痺」
「きゃーーーーー(叫ぶ)」
「ちょっと尿検査しましょう。じゃあトイレにいって、この紙コップにおしっこしてきてください」
「わかりました」
「だいじょうぶかなこの人、ちょっと揺れてるし。ちょっと、あ、あ、ああー。ちょっとなんかあふれてきてますよ。あ、ちょっと待って。こっち来ないで。震えてますよ。震えてます。脳性麻痺です。脳性麻痺です」
「風邪なんです。風邪。」
「あああーーーー」
中身が医者の顔にかかる。
「やっぱり私は脳性麻痺だ」
「いいかげんにしろ」
「どうもありがとうございましたー」
今のネタ、面白かった人?
みなさん、目をつぶってください。
三択でいきますからね。今のネタ、面白かった人は手を挙げてください。面白くなかった人は? 最後、このネタをどう見ていいかよくわからなかった人? はい。目をあげていただいてだいじょうぶです。面白かったとよくわからなかったが半々でしたね。
面白くなかったにも1人手を挙げている人がいました。私もシビアなお笑いファンとしては、もっと絶妙な言葉の選択があったんじゃないかなって(笑)。でも、私、足の矯正手術を13回してるんですね。なのに結局いちばんひどい痣は、去年、味噌汁をこぼした跡なんです。だから尿検査のところで「あるあるー」って(笑)。
あるね。手が震えてこぼすっていうね。
障がい者あるあるのお笑いを見れたのはうれしいですけどね。
引っかかったのが、ゲストで来ていた芸能人がめっちゃ笑ってたこと。
そうそう! さっきの運動会もゲストの「はははは」って笑い方にちょっと違和感あった。
面白いかどうかの判断を捨てて、仕事だから笑ってあげなきゃって機械的に反応している感じがして、そっちのほうが違和感でしたね……。
さすがメディアリテラシーが高い(笑)。3択で聞きましたけど、作ってる側からしたら1か2に手を挙げて欲しかったんですね。「よく分からなかった」っていう選択肢は、本来お笑い番組では出てこないんですよ。よっぽどシュールで前衛的なネタでもないかぎり。でも、あえて聞いたら、4割ぐらいの方が手を挙げた。「分からないと思った自分の価値観について考えてほしい」というのが、この企画の狙いです。「笑っていいかどうか分からん」っていうのも不思議な現象じゃないですか。
『THE MANZAI 2017』でウーマンラッシュアワーが政治ネタを扱って話題になりましたよね。私はリアルタイムで観ていて、政治かどうかは置いておいて、ネタとしてわりあい面白いほうだったな、という判断をしたんですけど。でも、正直最初の30秒ぐらいは、これはどう扱えばいいんだ? とは思いました。そのときの私の戸惑いと同じような感じを、受けたんじゃないかなあと感じたんですけど。
そうですね。この脳性マヒブラザーズのネタも、8年前の当時は面白いなあと思いながら観てたんですけど、今見たらやっぱつまんない(笑)。『M-1グランプリ』や『キングオブコント』に出てる芸人さんのネタと天秤にかけたら、圧倒的に実力が足りてないなぁと。ほんまはそういう目で彼らのネタを多くの人が見るべきなんじゃないかなと思います。
そういう意味で、今度のR-1ぐらんぷりで、致命的にネタがつまらないのと、微妙なラインなのに気遣い配点で優勝しちゃうのと、どっちのほうがいやですか?
ぼくがいちばん恐れているのは前者です。つまんないって思われたらほんまどうしよう。8年前から毎年SHOW-1グランプリやってるんですよ。年々ちょっとずつレベルは上がっている。そのなかでようやく今年、メジャーな大会に障がい者が出るというエポックなできごとが起こった。ほんまにがんばってほしい。
でも、つまんなくても、MCがうまくイジってくれたらうれしい。
そうですね。美味しいイジられかたをね。