• シェイク!Vol.13 どうしたら作れる、面白い企画 3rd(2)<br>伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.13 どうしたら作れる、面白い企画 3rd(2)
伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.13 どうしたら作れる、面白い企画 3rdの連載2回目は、伊藤Pの発想法をまたしてもどんどん掘り下げていく。そこで出てきたのが佐藤ねじさん命名の「変な主人公発想法」だった。連載2回目は”企画の保険”から、その”変な主人公発想法”についての話。

変な主人公発想法

伊藤

『池の水ぜんぶ抜く』がヒットして思ったのは「まだあったなー」っていう。放送作家と話してると「まあでもやり尽くされたからね」って、定説のように言うんですね。あれもやった、これもやった、消去法で考えたらもうやり尽くされた。だから近年、テレビはある種のごまかしのように、方法論だけを変えて新鮮に見せるということをやっていた。

佐藤

うんうん。

伊藤

テレビ業界の用語のなかでいちばん嫌いなのが「企画の保険」ってやつなんですよ。保険をかける。たとえば弱い企画だったらキャスティングをよくする。視聴率を取るための装置ですよね。最初に『池の水ぜんぶ抜く』の企画書を出して怒られたときも、「池の水を抜くだけでどうやって2時間やるんだよ。保険がかかってない」と。

米光

「前例がない」とニアイコールですよね。「ヒットしたこれに似てるからこれも行けるだろう」みたいな判断しかできない。

伊藤

でも、「テレビ東京は企画の保険という言葉を使うのを禁止してください」って、ちゃんと言って。

佐藤

おおー。

伊藤

……あのー、来週言うんですけど。

米光

来週?

伊藤

ここで練習して来週言います(笑)。で、「テレビ東京らしいものをやろう」も禁止。「テレビ東京しか絶対にできないものをやろう」って言う。そっちにシフトして自分たちの首を思い切り絞めようって。

米光

すばらしい。

伊藤

保険保険って言ってる人は、視聴者の想定内のものしか作れない。企画を考えるときは、保険をかけないことを心がけるべきなんじゃないか。

米光

ぼくは宣伝会議で、編集ライター講座の即戦力コースの専任講師を長年やっています。ちょっと書いてみたいぐらいの人は来ないでくれ、本気でプロを目指してる人だけを募集って言って、次でシーズン9になる。講座ではいつも「トッピング禁止」って言ってます。慣れてない人は、ありものの原稿に自分なりの何かをちょっとだけ付け足したものを書いてくるんですよ。ゲームもそう。学生にゲームを作らせてみると、もうあるゲームにちょっとだけルールを付け足して「ほくの作ったゲームです」って言ってくる。それはたいていつまんないと。さっきやった「ちょきじゃんけん」みたいにルールを追加しただけでも、全体の構造が大きく変われば新鮮なものになるんですよ。でも、単に乗っけてるだけだよねってことが多い。『池の水ぜんぶ抜く』は、他の番組とは根本から違っていて、トッピングではないじゃないですか。こんな番組なかったわーっていう驚きがあった。

伊藤

ふつうなら、お仕事紹介バラエティなんつって、コーナーのひとつで「はい、かいぼりです」って見せるわけですよ。「でもそれ面白くねえよな?」から入ったんですね。どうせ負け戦なら、どーんと豪快に行こうぜっていうところで、狭い入り口を作った。でも、やってみたら奥行きがあったことが逆にわかった。

米光

ワンコーナーだとあの奥行きは出ないですもんね。二時間まとめてやっているから、見終わったときに外来種のことを考えたりする。

佐藤

伊藤さんは前回、シェイク! Vol.9のときに、ある事件のニュースで、警察が池の水位を下げて捜索しているのを見て、池の水を抜いてみることを思いついたとおっしゃってましたけれども(記事アーカイブ)。そのアイデアの種を最終的にどのフォーマットに落とし込んでいくかも重要ですよね。ワンコーナーにするとよくあるお仕事紹介になるけど、それをメインにすることで新しいものになる。アイデアの種を形にするときに陥りがちな罠として、これのときはこうっていう型にはまっちゃうっていうのがある。たとえばプロジェクションマッピングをするときは必ず綺麗なかんじにするとか。

米光

あるねー、プロジェクションマッピング=幻想的なものです、みたいに、パターンが決まってきちゃう。

佐藤

当たり前のようにくっつけてしまっているものを引き離すことで面白いものが生まれるとぼくは思っていて。アートには、既成概念を覆す作用がありますよね。もちろんそれだけがアートの役目ではないんですけど、ぼくには『池の水ぜんぶ抜く』がアートに見えるんですよ。ふつうならワンコーナーにするようなテーマをメインにすることで、バランスが妙なかんじになっている。なんだこれは? っていう。

伊藤

今度また、明石家さんまさんに企画を持っていかなきゃいけなくて。やっぱりね、考えても考えても、新しいことをあの人にぶつけるのって難しいんですよ。

米光

うんうん。

伊藤

さんまさんで考える場合、さんまさんというジャンルがひとつありますよね。

佐藤

もはやジャンルであると。

伊藤

さんまさんは現在62歳。33年前に事件があり、以来、テレビ東京に出ていません。

米光

どんな事件があったんですか?

伊藤

さんまさんが出演していた『サタデーナイトショー』という番組が深夜にあって。昔、『ギルガメッシュNIGHT』という番組が土曜の深夜にありましたよね。それの原点となっているくそえろい番組ですね。

佐藤

今では考えられないような。

伊藤

当時のさんまさんは、28~9歳。『オレたちひょうきん族』でブラックデビルとかをやってた、まさに売り出し中のときです。フジテレビに行って、テレビ東京で一本撮って、まだフジに戻って、という多忙さでした。で、『サタデーナイトショー』がその月のテレ東の全時間帯視聴率トップの14%を取って。

米光

深夜にやってるにもかかわらず。

佐藤

大人気。

伊藤

テレビ東京は日経グループですから、『ガイアの夜明け』『ワールドビジネスサテライト』のような、知的な大人のための上質な時間を提供している局です。なのにトップがエロ番組。それを知った上層部が「こんなもん終われ!」で打ち切り。トップを取って即時終了という。さんまさんからしたら、頑張って結果を出したのにひどい仕打ちにあった。そこからテレビ東京とはいっさいご縁がありません。

でも、さんまさんのマネージャーさんから、やりませんか? とお話をいただいて、企画出しが始まりました。4、5本持っていって、ご本人判断でちょっと今回は……ということで、まだ実現していません。さんまさんスポーツ好きだよなってところに、今、なんとなく焦点は当てていて。もうすぐ2020年だし。でもさんまさんでスポーツってもうNHKがやってるしなー。ないかなーと考えているときに、一個あったんですよ。これもまた、どこからスポーツを見るかっていう目線の問題なんですよね。ぼく最近、少年野球の審判をやったので。審判目線はどうかと。

佐藤

審判目線! 面白そう。

伊藤

ひな壇全員審判って考えたらわくわくして。ゴールデンアンパイアっていう企画を立てました。さんまさんでやり尽くしました、スポーツもうやったからなしですって諦めるんじゃなくて、考え続けていたら審判という視点を発見した。地味なテーマだけれど、さんまさんっていうエンジンを積むと一気に成立しそうな気がしてくるんですよ。調べてみたら、競歩の審判も大変みたいです。走った状態、つまり両足が地面から離れた状態に3回なったら棄権なんですって。一緒に歩いて見てるみたいなんですけど。

米光

え、審判ずーっと見てるの? 一人に一人つくのかな?

伊藤

そこはまだ調べてないです。

米光

あーでもそのへん知りたいですねー。一人で何人も見れないよね。

伊藤

で、3回で棄権だから、最後、割り切って走ってくるやつがいるんですって。あいつは絶対やってくるから、一回走ったら退場だなって審判員同士で話すそうです。そういうふうに、審判ならではの知られざる目線ってありそう。あるいは審判から見て素晴らしかったプレイのことも聞きたい。

米光

『江夏の21球』のときの審判に来てもらうとか。
※参考:江夏の21球

伊藤

NHKさんにやってほしいですね。うちだと権利がないんでイラストになっちゃうかもしれない(笑)。発想のしかたで言うと、ぼくは、端っこにあるものを拾っていくことが多いですね。

米光

端っこにいるけど、審判って真剣にずっと見てるんだもんね。

伊藤

しかもあの近い位置で。

佐藤

(iPadにメモを取って)、いま、「変な主人公発想法」とメモしました。ぼくはプランニングしていて詰まったときは、他の人の発想法をインストールして考えてみるんです。審判をいちばん真ん中に置く。それが番組になる。なんだか、主人公のキャスティングを大抜擢するみたいな。それは人に限らず、物や現象もそうで、メインを何にするか。

米光

みんなが見逃しているものを真ん中に持ってきてるもんね。

佐藤

だから「変な主人公発想法」。

伊藤

スポットが当たらない人っているじゃないですか。当たるとすごい喜ぶんですよね。水抜き業者が張り切ってウェアを新調してきたりね。

米光

ポンプがバージョンアップされてね。「超メガトンポンプ」とか「極太ハイパーホース」とか、名前がすごいの(笑)。

佐藤

以前思いついたアイデアに「誇り高きほこり」というものがあります。まだ実現してはいないんですけど。インスタレーションで、暗い部屋に光を当ててほこりの動きが見えるようにする。ほこりは風の流れにそって動くけど、どうにか技術を使って、一個のほこりだけ風の流れに逆らって動く。ほこりが意思を持って自然に抗う姿を見たらぐっとくるんじゃないか。これってぼくのなかでは審判と通ずるものがあるんです。

米光

通ずるの?

佐藤

ぼくのなかでは(笑)。主人公の置き方が。

米光

なかなか注目されないほこりが主人公だもんね。

佐藤

あと、ぼくだったら審判をいつもと違う位置に置いてみたいですね。イベントにトーク審判員がいてたまに笛を吹く。いまここにいたら……。

米光

ピピーッ、また脱線してますよーって。

佐藤

自己紹介長いですよーって。

伊藤

審判員がボタン押すと、ねじさんの帽子がどんどん上がっていっちゃう。で、ぼくは沈んでいっちゃう。

米光

今、審判員がいっぱいボタン押してると思う。この話やめやめやめーって(笑)。

[ 次回 気持ちよさをとことん追求してみる へ続く ]

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