• シェイク!Vol.12 見せ方一つでデータを面白くする(5)<br>小国士朗(NHK制作局)×有沢慎太郎(NHK編成局) ×田中直基(Dentsu Lab Tokyo)×金沢慧(データスタジアム) ×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

シェイク!Vol.12 見せ方一つでデータを面白くする(5)
小国士朗(NHK制作局)×有沢慎太郎(NHK編成局) ×田中直基(Dentsu Lab Tokyo)×金沢慧(データスタジアム) ×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

異なる業種で活躍する5人がそれぞれの視点で語り合い、新たな価値観を生み出すヒントを見つけるトークセッション「シェイク!」。

連載最終回は、東京オリンピック・パラリンピックのはなし、特に後半はパラリンピックの話題で盛り上がりました。

東京2020オリンピックがチャンス!

小国

1つチャンスは、世界中が日本に注目する2020だと思うんですよね。2020にエンターテイメントをどれぐらいできるかが鍵になる。

森永

なにかアイデアはあったりします?

田中

中継で言えば、これはディープラーニングじゃなくてデータマイニングという別の手法になりますけど、スポーツのデータとその他のいろんなデータを掛け合わせることで「このバッターは満月に限ると打ちます」とか「この二人は広島出身次男対決」とか、違う視点が提示できたら面白いと思いますね。

小国

前に「お母さんの名前がいっしょだ」って話して盛り上がったよね(笑)。

田中

「その情報今いる?」みたいなのが日本人は好きですよね。そういうムダがいいんじゃないかな。

小国

テレ東さんの選挙特番、あれはやっぱりひとつのモデルだよねって話してたんですよ。当選者プロフィールが細かすぎって毎回話題になるじゃないですか「愛犬シェパードに尻噛まれる」「骨折に気づかず1日我慢」とか。

有沢

うんうん。

小国

あれはすごい発明だと思いました。そういうムダな楽しさをZUNOさんではやりたいよねって話をけっこうしましたね。

田中

それは機械の得意なことのひとつですよね。

森永

2020に向けて、そういう演出の余地がありそうなスポーツはありますか?

金沢

スポーツの中継を面白くしようとしたときに、そのスポーツがどんなものなのか解説するという方向になりがちです。スポーツ自体に意味を持たせようとしている。ZUNOさんのように別のところで対決する試みは、まだされてないと思うんですね。だからどのスポーツでもやりようはあるのかなあと思いますけどね。

森永

このまえ、陸上の末續さんがタイムを競うんだったら一人で走ればいいじゃんって話してたんですね。それで最高記録のデータで比べて金メダルを決めればいい。

小国

なのにわざわざ4年に1回全員集合してね。

森永

そうそう。でも、末續さんは体が小さいから、日本ではそこまでタイムが出なくても、国際大会で体格の大きい選手に囲まれると煽られるようにタイムが上がるそうなんです。なぜみんな一緒に走るのか哲学的に考えちゃうんですよって言ってました。そういう、なぜなんだろうっていうことをデータで掘り下げても面白いかもしれないですね。それから、他局ですけど、この間、世界柔道で初めて畳の下にマイクが入ったんですよね。中継の迫力が変わりました。2020に向けて、AIに関わらず、ここにセンサー入れたいとかってありますか?

小国

土俵かなあ。相撲もだんだん、中継中にデータを取りはじめています。白鵬ってあんなに大きいのに立ちあいの初速速いな、とか。全力士で一番早いんですよ。あと、腰の角度や高さを見ると、相撲は腰が大事っていうのはほんとうなんだなってわかってくる。でもね、個人的には、結局相撲でいちばん面白かったのは、ニコニコ超会議でやっていたリアルSUMOですね。

田中

ドラゴンボールみたいなエフェクトががんがんかかって。

小国

そうそう。体が炎に包まれてどーん! ってビーム出す。結局そっちのほうが面白い(笑)。

森永

相撲は伝統的なスポーツなので、古臭いってイメージがあるかもしれないですけど、最初にビデオ判定取り入れたの、相撲ですからね。意外に新しいことは相撲が始めてる。

小国

へー。面白いですね。

森永

あの土のなかにセンサーが埋まり始めるかも。

田中

伝統×AIというギャップは楽しいですよね。

森永

私、土俵であれやってほしいです。バレットタイム撮影。マトリックスみたいに360度ぐるっと回る映像で投げた瞬間を見たい。メジャーリーグの球場に入ってるんですよ。

金沢

ありますね。いくつかカメラがあって、間を補足して、一周をどこの角度からでも見ることができる。

小国

今、うちの技術研究所でそれをやっています。フィギュアスケートで実験してるんですけど、やっぱり面白いですね。

森永

野球でも、ボールのなかにチップを埋め込むことが増えてきたんですよね?

金沢

メジャーリーグではぜんぶトラッキングをしてるとお話をしましたけど、これだとやっぱり何千万円単位なんですね。自分でちょっと投げた球を計りたいとか、そういうレベルまで下がってきていなかった。

森永

高校野球でも草野球でもやりたいですよね。

金沢

で、ちょうど今は、プロやトップチーム、トップ選手が使っていたテクノロジーが一般に落ちてきている過渡期ですね。うちでも、かんたんに10分ぐらいでセットできて、カメラを立てて投げたら球の回転や軌道を見られるものを取り入れたりしています。

森永

サッカーでもドルトムントの香川選手がスポーツブラのような計測デバイスを着て話題になりましたね。加速度計、ジャイロスコープ、コンパスの3つのセンサーがついているという。今後、センサーは増えていくのかなあと思うのですが、2020オリンピック競技で、あの競技にセンサー入れたいみたいなのってあります?

田中

ライブでの物理的なセンシングよりも、むしろ画像から3Dモーションを取ることが進んでいて、そっちに行きそうな気がする。やっぱりスポーツにセンサーを導入するのって、センシティブな問題ですもんね。

小国

ルールを変更しなくちゃいけなくなってくる。だから大相撲もセンサーじゃなくて画像解析なんですよね。

森永

ネット配信が今度増えていくなかで、ネットに人員を割けられないからAIに実況させよう、みたいなことは起きてくるんでしょうか?

小国

リアルにあると思います。2012年のロンドン五輪はBBCが全競技を配信しました。デジタルオリンピックと呼ばれるくらい画期的だったらしいんです。それはもう当たり前になっているなか、AIが解説して実況することを始めようとうちの技研でも一生懸命やってるんですけど……。

森永

進捗はどうですか?

小国

まだまだ…なのかな

田中

難しいですよねー。この前バスケットボールでねー。

金沢

公開実験をして。

小国

見ました?

金沢

見ました。

小国

数秒ずつディレイしていく。

金沢

確か、公式の結果のデータを入れてるんだと思うんですけど。

小国

うん。「3ポイントです」っていやもうそれ終わってるから、っていう。見ている方からしたら、まだちょっと実況というにはもどかしい状態かもしれませんね。

金沢

ほんとは、今、放送している映像からそのまま解説してっていう状態が望ましいですよね。

小国

でも、画像解析の技術が進んでいけば、もっとリアルタイムに近づけるかもしれない。挑戦としてはすごく面白いと思うし、可能性は大いに感じますよね。

客席 F

2020年のパラリンピックでも、データを使うことでパラスポーツをもっと面白く見せることができると思います。たとえば、車椅子バスケでガチッとぶつかる衝撃をデータで見せるとか、そういった動きがメディアで特にあるなら教えてください。

森永

パラといえばNHKですけれども。

有沢

そうですね。NHKのBS1で、超人たちのパラリンピックという番組を放送しています。為末大さんをキャスターに、データ面からパラスポーツをわかりやすく伝えていくことを、これまでもやってきました。たとえば、アイススレッジホッケーのトップ選手は、手でチェアを操作するので、健常者のアイスホッケー選手に比べても腕の筋肉が非常に発達しているんですね。車椅子バスケ選手のプレイ時の脳波の動きを調べて、健常者とは違う脳の発達をしていることを解析したりしました。そういう取り組みはイギリスのチャンネル4が最初に始めたことで、我々も後追いではあるんですけど、このひとたちほんとにすごいんだっていうのを見せるのに数字は説得力があるなあとは、確かに思っています。

森永

パラリンピック冬季の、あの、スキーの滑降! ほんとすごいですよね。人間ワザじゃない。

小国

ああ、チェアスキーの。やばいよね。

森永

ああいうのを面白く見たいですよね。

小国

そういうときにVRはいいと思ってて。ぼくが去年のパラリンピックでやったのは、走り幅跳びで銀メダルを取った山本篤さん。砂場にカメラを仕込んで、跳んでるところを撮りました。砂場から見ている気分になれて「おおー!」「すげー!」ってなりました。車椅子バスケもVRで撮ってみました。体感できることがVRの特徴のひとつでもあるので。

森永

その人の気持ちになれるっていうのは大きいですよね。

小国

道下美里さんという全盲のマラソンランナーがいます。走るときは「きずな」と呼ばれる一本のロープを道下さんと伴走者が握って、ペアで走るんです。その伴走者の視点で、ふだんの様子と、走ってるときの両方を、VRで撮ったんですね。ふだんは白杖をついて歩行していて、交差点を渡るのもとても時間がかかります。悪気なく置かれたベビーカーに杖が当たって足が止まったりする。その選手がこう、いざ、練習で走り出すと、ものすごく気持ちよく走っているのがわかる。ふだんとのギャップを体感することで、なぜパラリンピックというものがあるのか、その意味が腑に落ちるんですよ。走っている間声かけをする伴走者の姿から、伴走者の気持ちもわかる。理解がぜんぜん違う、という声を聞きました。まだまだ拙い表現でしたが、VRによるパラの体感を目指してみました。これからも、テクノロジーを使ったいろいろな方法が出てくると思います。

森永

うんと先のことを言うと鬼に笑われるかもしれないですけど、このメンツで、オリンピックパラリンピックが終わったあとに反省会をやったら面白そう(笑)。

小国

ぜんぜんやってねーじゃん、みたいな(笑)。

田中

テクノロジー活かせてねー、みたいな(笑)。

小国

そしたら怒られようね(笑)。

森永

(笑)。……ではオチも付いた所で、いい時間になりましたのでこれで終了とさせていただきます。
本日はどうもありがとうございました。
(拍手)

<完>

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