• シェイク!Vol.12 見せ方一つでデータを面白くする(4)<br>小国士朗(NHK制作局)×有沢慎太郎(NHK編成局) ×田中直基(Dentsu Lab Tokyo)×金沢慧(データスタジアム) ×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

シェイク!Vol.12 見せ方一つでデータを面白くする(4)
小国士朗(NHK制作局)×有沢慎太郎(NHK編成局) ×田中直基(Dentsu Lab Tokyo)×金沢慧(データスタジアム) ×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

異なる業種で活躍する5人がそれぞれの視点で語り合い、新たな価値観を生み出すヒントを見つけるトークセッション「シェイク!」。

連載4回目は、スポーツとデータの関係の話を中心に話が進みました。

スポーツデータの現在

森永

世界ではどんなデータの使われ方をしているんでしょうか。

金沢

最近だとトラッキングというものが流行っています。メジャーリーグではもう10年以上、ピッチャーが投げたボールの軌道をぜんぶ自動で撮ってるんですね。

森永

光センサーですか? それとも音波?

金沢

昔は画像解析でしたが、今はドップラーレーダーの仕組みを使ってとっています。レーダーを当てて、ドップラー効果を利用してとるんです。ドップラーというのは、救急車のサイレンが向こうから来るときは高い音で聞こえるんだけれども、通り過ぎて向こうにいくと低くなるというものです。

小国

距離がわかるんですか?

金沢

レーダーを当て続けると、その球が今どこにいるかがわかります。それが返ってきた時間を見て球速がわかるという。そういうのが今、アメリカの球場にはぜんぶついてるので。

小国

それって人気があるんですか?

金沢

アメリカにはその日の試合を自分で予想して当たる、当たらないを楽しむ風潮があるんです。

小国

そうか、予想に必要だから情報がたくさんほしいと。

金沢

そういう楽しみ方をしているファンが多い。野球ファンが球場に行く以外に直接お金を払う仕掛けがそこにあるので、最先端のことをやっているとをリーグ全体でアピールしていかなきゃいけない。

森永

ちなみに、アメリカでは野球のファンタジーゲームが流行っているんですが、ファンタジーゲームわかるよって方います?(客席に)。あ、いない。解説しましょう。

金沢

はい、ぜひ。

森永

野球のリアルデータを使ったゲームです。プレイヤーはあらかじめ年間予算が指定されています。自分の予算に応じて、たとえばピッチャーは大谷、キャッチャーは楽天の嶋にしようというふうに、自分の理想のチームを作り上げます。毎日試合が行われて、選手のデータからあなたのチームはこういう結果になったはずです、という判定が出て、一番強いチームを作った人が1位、みたいなランキングもでます。そんな風にアメリカ中のファンタジーゲーマーたちがスコアを競って楽しんでいます。いわゆる課金廃人みたいなひとは、お金を払うことで自分の予算を増やして良いピッチャーをたくさん入れたりします。

小国

へぇー。

森永

ファンタジーゲームは日本ではそんなに来てないですけど、アメリカでは流行っていて、データ需要にもつながっています。

有沢

ZUNOさんの順位予測は確か、ピタゴリアン勝率でしたっけ。ディープラーニングを使ってシーズン総得点と総失点を割り出してやりました。ファンタジーゲームと近い気はします。データスタジアムさんにも予測システムがあるんですよね?

金沢

うちは選手の能力値を決めて、シミュレーションで戦わせています。やっぱり同じ試合でもホームランを打ったり打たなかったりするので、200試合とか300試合くらいシミュレーション

森永

パワプロぶん回す感じですね。

金沢

まあそんなかんじですね(笑)。

田中

データスタジアムさんの予測は当たってるんですか?

金沢

うちは順位予測はまだしてないんです。4月の時点で9月の試合に誰が出るかを予測できないので。明日の試合がどうなるかは毎日予測しています。それはトータルで6割ぐらい当たっています。

客席 C

海外の球場にはドップラーレーダーがついているのに、日本が興味を持ってないのはなぜなんでしょう。

金沢

日本でも興味のある球団は多くて、どんどん入るようになっています。日米のいちばん大きな違いは、メジャーリーグの場合、リーグ主導で全体に入れていること。日本の場合は、各球団が自前の強化のために入れています。あとは、メディアでの活用に関しては、温度感やスピードがかなり違うのかな、とは思います。

森永

日本では、そういったデータは自分のチームにしか使ってないんですかね。試合中だったら相手のデータも取れちゃうじゃないですか。

金沢

データをオープンにして、相手も見れるしこっちも見れますよっていう形でやっているところが多いかな、とは思います。球団がそうしたいと言ってるんじゃなくて、データを取る側がそういう仕組みを用意しています。

森永

じゃあ、全球団ということにいずれはなりそうですね。

金沢

そうですね。メジャーリーグの場合だと、データがウェブにどんどん出ています。今日、ダルビッシュの1球目は回転数がどのくらいかというデータに我々がふつうにアクセスできちゃう。

客席 D

野球の球の軌道って再現できたりするんですか? たとえば伊藤智仁のスライダーは当時こうだった、やばい、みたいな。

森永

渋いピッチャーの名前出しますねえ(笑)。

金沢

できます。NHKでもトラッキングデータをもとに軌道を再現するシステムを作られています。

小国

へえ。知らなかった(笑)

森永

ゴルフ中継でも最近よく見かけますよね。

金沢

実際に画像に線を引くものと、あとから再現するものと2パターンあります。

客席 E

テレビを見ながら、VRをつけたら大谷が今投げた球がどうだったかわかる、みたいなことは可能ですか?

金沢

やろうと思ったらできます。どこまでの精度かっていうのはありますけど。

田中

それをどう活用するかを考えなきゃですよね。

小国

そうそう。データをまんま放り出すと、「で?」と言われちゃうから。どう演出するかが問題ですね。

有沢

解説者の方が、今日の大谷の肩が下がってるとか肘が下がってるとか感覚で言っているのを、ほんとにそうなのか見るとか。

金沢

それはできますね。1回と9回で変化するのも確認できますし。

森永

野球以外でも、データを使う動きはあるんでしょうか?

金沢

うちの会社だと、メインはサッカーとラグビーです。バスケットボールのBリーグの公式記録も扱いはじめました。今は、AIの予測以外の使い方として、データの取得ができないかと話しています。このプレーはこれだと判別できるようにトライしています。

森永

サッカーのデータを取っている様子を見ると、かなり大変そうですもんね。映像を一時停止して、データを入力して、また再生。その繰り返し。

金沢

1試合で10時間ぐらいかかります。

森永

試合が終わったあとにアルバイトたちがコツコツやっている。

金沢

サッカーにもトラッキングデータが入ってきているので、J1リーグに関しては全選手11対11がどう動いているのかデータは取れているんですけど。ただ、これがパスなのかシュートなのか、このプレーなんなの? という判断はけっこう難しい。それをディープラーニングで覚えさせて判別させようとトライしています。AIの使い方もいろいろあります。

田中

判別といえば、試合中に選手が聞こえないぐらいの声で喋ってることがよくあるじゃないですか。最近の研究事例で読心術のように、動画の口の動きから言っている言葉を判別するという事例が発表されていました。またしても、遊びとしての使い方になりますけど。

森永

一塁ランナーが出たときに、一塁手とランナーが雑談してて、たまに審判まで加わって。あれ、すっごい聞きたいなーって。

田中

そういうのを出すこともできますよね。

森永

マスクのなかでぼそぼそ喋ってるキャッチャー多いっていうじゃないですか。それも聞けたら面白そう。昔、古田さんがいろんなバッターに対して「今日はカレーなの? うどんなの?」とか、適当なことを言いまくってたんだけど、松井秀喜さんだけは何を言っても動じなかったと話してたんですよ。そういう会話が取れたら面白い。試合中に流すと問題になるかもしれないですけど。

金沢

他局ですが、バレーボールの中継で選手の心拍数を出していますよね。あれはもともと選手のために、たとえば、心拍数が高すぎたときに「リカバリー」って声をベンチからかけて、落ち着かせてからサーブに行かせる、というふうに使っていたんです。それを中継でも使っちゃおうということで、「木村沙織選手、いまの心拍数は百いくつです」って放送してるけど、言われてもよく分からない(笑)。

森永

だからなんなんだ、その数値どうとらえれば良いんだと。

有沢

心拍数って言われてもってことですね。

金沢

それをどこまで出していいかの問題もありますよね。読唇術といえばこのまえ、テレビ番組の内容に対して、ダルビッシュ投手が、「絶対言ってないです(笑)」とツイッターで反論して。

田中

炎上してましたね。

金沢

出したら面白いけど、どこまで出せるのかという問題もありますよね。

次回 東京2020オリンピックがチャンス! へつづく

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