• シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2nd(1)<br>伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2nd(1)
伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

異なる業種で活躍する3人がそれぞれの視点で語り合い、新たな価値観を生み出すヒントを見つけるトークセッション「シェイク!」。第9回は、株式会社テレビ東京の『モヤモヤさまぁ~ず2』でおなじみ伊藤Pこと、伊藤隆行さん。『ぷよぷよ』の生みの親でも知られているゲーム作家でライターの米光一成さん。そして面白法人カヤックを独立され2016年7月に株式会社ブルーパドルを設立。現在アートディレクター/プランナーとして活躍されている佐藤ねじさんの3名がふたたび登場。前回に引き続き、さらに深掘りした形で 「どうしたら作れる、面白い企画」のテーマを軸に語り合った。その模様を全5回シリーズでお届けする。

最新の仕事とその発想方法を紹介

伊藤

2回目ということで、前回も来られましたって方、いらっしゃいますか?

(客席 会場の半分くらい手が挙がる)

佐藤

けっこういらっしゃる。

米光

前回はね、初めて会ってトークする3人だから、多少の緊張感がありましたよね。でも今回の我々はまったく緊張感がない。

伊藤

とくに米光さんが緊張感ない。

米光

あら? 俺だけ?

伊藤

ぼくらこう見えて、まあまあ緊張感あります。

米光

しまった(笑)。リラックスすることがいい方向に出る場合とよくない方向に出る場合があるじゃないですか。どっちかな? っていうのが今日の見どころです。

伊藤

前回から5ヶ月経ちました。自己紹介を兼ねて、最近どう? という話をお願いします。あ、タイトルコールやりますか? 今回はシェイク第9弾ということで、シェイクナインですよ。練習なしで言ってみましょうか。

一同  「シェイクナイン、おー!」。

佐藤

がんばるぞー!

伊藤

じゃあ、ねじくんから。

佐藤

Blue Puddle Inc.という会社をやっています、佐藤ねじともうします。ウェブやアプリなどのデジタルコンテンツのアイデアを考えて作っています。最近だと、「変なWEBメディア」というのを立ち上げました。

伊藤

変なWEBメディア?

佐藤

たとえば「みんながアクセスすると劣化する記事」。アクセス数と時間経過によって文字がかすれ、黄ばんでいきます。

伊藤

劣化するのいやですねえ。

佐藤

5年後に見にきてくださいって言ってます(笑)。ウェブのネタは1日で消費されてしまうものだから、あえて5年の賞味期限のものを作ろうとしてみました。そういうふうにして、いままでになかったネットのメディア記事のあり方を探っています。他には「朝昼夜・読む時間に合わせて変化する記事」とか。

伊藤

なんでそんな変なことを考えるんですか?

佐藤

え? あー、あの、「ふつう」の輪郭を見つけると奇抜なものを作ることができるじゃないですか。

米光

常識が分かっていると、そこからずらすこともできるってことだよね。

佐藤

そうです。「ふつう」と「変」の境界線を探すのが趣味なんです。

米光

「変なWEBメディア」は、自分で立ち上げて自分で作っているの?

佐藤

はい。ライターではない人間がジャーナリズムではない形でウェブメディアを運営したら面白いんじゃないかなあって。自分が面白いと思うものを世に出していくと、いろんな人に出会えて、それが作品を作ることにまた繋がっていく

伊藤

(ねじくん)最近テレビ東京の番組に出演されています。

佐藤

○○と新どうが」という深夜の5分番組です。いわゆる縦動画、スマホで見るのに適した縦長サイズの動画ですね、それの新しいありかたを探るという。クリエイターが芸能人を被写体に縦動画を作る様子をドキュメントして、完成作品はLINE LIVEで配信されます。出演者はバッドナイスの常田さんという芸人さんと、あとひとり……あ、まだ発表しちゃいけないか。今日放送されるので(編集注:片桐はいりさんでした)。

伊藤

月曜から金曜の毎日放送しているので、今夜ご自宅に帰られたらぜひごらんください。よし、番宣できた! 米光さんは最近どうですか?

米光

米光一成です。ゲームデザイナーをやっています。半年だと、さしてなにもしてない。日々生きているぐらいですよ。まあ、いちおうゲームを制作途中です。

伊藤

どんなゲームですか?

米光

アナログゲームで「はぁって言うゲーム」っていうゲーム。

伊藤

はあ?

佐藤

はあ?

米光

色々なニュアンスの「はぁ」があるでしょ?それぞれの「はぁ」をみんなに言わせたい欲望がぼくのなかに生まれてきたので、言わせるゲームを作りました。

伊藤

はあ?

米光

ちょっとやってみていい? やるつもりなかったんだけど、「おまえなに言ってんの?」というバイブスがいまびんびんに伝わってきた。

佐藤

前回も米光さんのカバンからいろいろと、タロットとか出てきましたが。

米光

今回はこれです。カフェにコーヒーの回数券ってあるでしょ。。ミシン目から切り取るやつ。あの印刷を使って作ろうと思っています。「はぁ」じゃなくて「んーって言うゲーム」のほうでいいですか?

伊藤

んーでいいですよ。

米光

いまから配るチケットには、8種類の「んー」が書いてあります(会場のお客さんにも配りながら)。

伊藤

A キッスをねだって「んー」、B 考え込んで「んー」、C なっとくの「んー」、D がまんして「んー」、E そうかな? の「んー」、F ちょっと違うなの「んー」、G しぶしぶ同意の「んー」、H 生まれそうの「んー」。

米光

8種類のうちひとつに王冠マークがついています。それが自分の担当です。

伊藤

自分の担当の「んー」を表現するんですね。

米光

それぞれが表現して誰がどの「んー」かを当てるというシンプルなゲームです。

伊藤

なにさせてんですかほんとに。

(来場者もふくめ8人でプレイ。順番にいろんな言い方で「んー」が発せられる。照れたり、笑いだしたり、会場が盛り上がる。「そんなのないよ?」「おかしいな」「ぼくパーフェクトだな」「いまのは分かった」「途中で推理が崩れた」「キスっぽい人が多い」などの声があがる。答え合わせにより、伊藤Pが来場者が演じた「キスをねだってのんー」を、「ちょっと違うなのんー」と解釈するなど、多くのすれ違いが明るみに出た。)

佐藤

面白い。

伊藤

面白かったね。

米光

人と人は誤解しながらコミュニケーションしているな、というのがよく分かる。伊藤さんそうとうキスチャンス逃してるかもしれないですよ。

伊藤

女心を分かってないねって妻によく言われます(笑)。このゲームはどうやって思いついたんですか? 回数券を使っているとき?

米光

最初はカードで作ってました。回数券は後から思いついたアイデアです。ぼく、飲み会で気軽にゲームをやってほしいなと思ってるんですよ。なので、なるべく自然に出せて、会話が生まれて、短く終わるゲームを作りたいという気持ちがあって。シンプルにするにはどうしたらいいか、いろいろ考えるうちに形になっていく。

佐藤

ぼくもボードゲームが大好きだから作りたくて、いろいろ考えてます。でもぼくは、デジタルの力に頼ろうとか、どこか逃げているんですよね。このゲームはもっと根本的ですね。シンプルなルールがあって、紙をちぎるだけでできて、誰でも遊べる。

伊藤

米光さんは飲み会をフィールドにしようという意識なんですか?

米光

自分が遊びたいんですよ。飲み会で雑談が尽きてふっと沈黙が来たときに軽くやる、ぐらいの。

伊藤

会社の飲み会でやるのはいいかもしれない。若い人とのコミュニケーションの取り方がわからない上司が急増してますから。

米光

そうね。文化や考え方が違ってもゲームのルールは共有可能だからね。それがゲームのいいところで、上司だろうか社長だろうがゲームのなかでは平等に勝ち負けが決まる。

伊藤

この半年、何もしてないわけではないじゃないですか。

米光

んーでも遊んでるだけですからね。伊藤Pは、新しい番組を次々と手がけられて。

伊藤

池の水を抜くっていう特番を日曜ビッグバラエティでやったら、思いのほか視聴率がよかったんです。明後日に第二弾「大反響!!“池の水ぜんぶ抜く”!緊急SOS外来種から日本を守れ」が放送されます。

米光

なんで池の水を抜こうって思ったんですか?

伊藤

ある事件のニュースがきっかけです。池の水位を下げて警察が池の中を捜索していて、これ、どうやってるんだろうと気になって。池の水を抜くだけの番組があったら面白いなと思ったんです。

米光

番組を見て、「池を知らなかったな、おれ」って思った。

伊藤

日本の池の数は何十万って言ってたかな。もう池だらけ。池大国ニッポン。池って稲作文化によって生まれた用水池なんですよ。他には東南アジアの、タイのような稲作のところにある。

米光

びっくりしたのは、池に栓があったこと。見るまでは、池の水をポンプで汲みあげるんだと思ってたの。そしたら栓を抜くって言い始めた。池って人工的なものなんですね。

伊藤

けっこうな確率で栓がついてます。勉強になりますよ、あの番組。

米光

カメがいっぱい出てきたね。

伊藤

カメ大国ニッポンですね。たぶん人口超えてますね、カメ。すごいんですよ。ミシシッピアカミミガメとか30センチぐらいになってる。今週すごいの出てきますので!

米光

でも企画書を立てたときは、外来種とかの生態系の問題とか、そのへんは、

伊藤

想定できていなかったです。でもなんかとんでもないものが出てくるだろうと。

米光

で、やってみたらいろんな問題につながっていた。すごい社会派じゃないですか。

伊藤

ええ。「うちのも抜いてくれ」っていう声が殺到しまして(笑)。大変だから続編は半年後かなって言ってたんですけど、反響もあったので時期を早めました。今回はお堀の水を抜いたんです。

米光

抜くのってどのくらい時間がかかるの?

伊藤

池によりますね。いちばん長いのは一週間かかりました。神社にある小さなものなら数時間です。

米光

今はめちゃめちゃ池に詳しくなってる?

伊藤

そうです。池と、水を抜く業者に詳しくなって重機が好きになりました。

佐藤

重機の番組もできそう。

伊藤

やります。6月25日に、重機ばっかり出てくる番組もやる(笑)。巨大な岩が道をふさいでいる動画を見て、岩もありだなと、いろいろ重機を調べたらあるんですよ、巨大な岩を砕くやつが。どおーーーーん! みたいなの(身ぶりで示す)。

米光

わかんない(笑)。

伊藤

ぼがぁーーーーん! みたいなのがあるんですよ。岩砕き業者がいるんです。いま、いい岩をふたつ見つけて、ディレクターがロケハンに行ってます。

米光

伊藤Pはサンダーバードになろうとしている?

伊藤

そうです。仮タイトルは「たすけて」。困っている人を助ける特番。この岩があっておばあちゃん通れませんみたいな。

米光

ほんとにサンダーバードじゃないですか。

次回 伊藤Pの発想法を掘り下げる「スタッフが力を発揮する場のつくりかた」へつづく

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