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シェイク!Vol.8 面白いアニメとは何か考える 2nd(2)
那須惠太朗(サンテレビ)×片岡秀夫(東芝映像ソリューション)×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)
シェイク!Vol.8「面白いアニメとは何か考える 2nd」のシリーズ2回目は、サンテレビ那須氏によるアニメビジネスの話が前半、後半は2.5次元系の話題について話を深めた展開になった。
アニメビジネスの現在
あらためて自己紹介しますと、私はサンテレビでアニメ等の番組調達や、自社番組の販売を担当しております。では、アニメというコンテンツが一日の中で各テレビ局でどのように編成されているのか、タイムテーブルの流れを簡単に説明したいと思います。
このスライドは、アニメコンテンツだけを月曜から日曜の一週間でタイムテーブル上にざくっと並べたものです。22時台~27時台がだいたい関東・関西でアニメが編成される時間帯です。関西(サンテレビ)の場合、23時台以降から25時台終わりまでをアニメのゾーンとして編成しております。
月曜の深夜からめちゃくちゃアニメを観させようとしている編成ですね(笑)
そうなんですよ(笑) 特に月曜は阪神の野球中継がほとんど無い日ですので、よく観られているという要因があります。一週間で見ると、25時台までの月曜~日曜はだいたい弊社が放送しております(一部NHKが土曜23時でひと枠放送)。で、26時台以降は準キー局(MBSやYTVなど)が曜日別に編成しているという状況です。
アニメ放送時間が重なっていないのはたまたまなんですか?
意図的に重ならないようにしています。
東京だとMXTVとTXは結構ぶつかることが多いですが 。
実はそこも最近少しずつズラされるようになってきています。次のスライドに移りまして関東でのアニメ編成動向を見てみますと、MXTVが大半を占めていますよね。全体でみると早い曜日は21時台から始まって、25時台ぐらいに終わります。関西よりも1時間ほどアニメ編成の始まる時間が早いんですね。関東だと26時台以降が系列局のローカル放送枠になりますので、それまでの時間は各製作委員会がMXTVを枠取りして放送しています。放送の時間数(単位:分)で比較すると、関西は関東の約85%になります(2016年10月期での比較)。アニメ編成枠で比較すると、関東は関西より1時間早く始まり1時間早く終わる傾向です。関西準キー局は製作委員会アニメの放送局幹事をすることが多いので、その分、ローカル枠を下(深夜)に積んでいきます。準キー局の編成だと25時台はローカルのお笑い番組になるので、26時台からがアニメゾーンになる傾向が見受けられます。
日本動画協会が発表している調査のサマリー※を見てみると、テレビアニメのタイトル数はここ2年で最高になっています。現場が苛酷になっているということばかりがニュースに取り上げられていますが、実態として制作本数が相当多くなっています。これまでの最高本数が2006年でした。いったんそこから減ったのですがここ2年でまた多くなりました。
大人向け(深夜アニメ)で2種類あるのですが、実は2015年に制作分数で子供向けと大人向けが逆転して、大人向けのアニメが多くなっています。2015年以降、アニメがもう大人向けのビジネスであるということが基本になっているということの表れだと思います。そして、2次利用でビジネスができるということで、どんどん商売が広がっています。パッケージについては減っていますが、配信についてはどんどん増えていっています。日本にもいろいろなプラットフォーマーが参入していて、そこに対する販売が増えている。海外のプラットフォーマーに対しての海外版の販売も増えています。いまは1話3500万円で売れているようです。以前聞いたときは1話1500万円でした。そこから、これだけ伸びたと。
国内の配信ですとそれまでは1話で数百万円みたいなレベルで、配信出来たらギリギリ製作費を回収できるかどうかといった規模でした。それが、1話3500万円で売れた作品が出たということで業界に激震が走り、良いものを作れば1シリーズ買ってもらうだけで良いみたいな状況になってきました。
ものにもよりますが、深夜アニメの全話合計の予算が1億6000万円~2億円と言われる中で、1話で3500万円売れるのなら、全12話だとしたら海外に売るだけで利益を出せるようになっていますので、海外に売る事例も増えています。それだけではなく、海外からの出資者を募って製作することも、現在始まっています。
いまは海外でも、日本での放送タイミングと同時配信というのが当たり前になっています。最近では放送されたアニメの感想を2ちゃんねるやブログなどネットで見ていると海外からの感想が、ほぼズレなく書き込まれています。海外からの感想がタイムリーに日本へ還元されるのは面白いですよね。
ほかにも2.5次元舞台や声優さんのコンサートなどライブエンタテインメント市場でも対前年比で250%を出している分野があるなど、相当に売上を伸ばしています。こういったことが積み重なって商売が大きくなってきているというのがアニメ市場の現状です。
2.5次元舞台については最近私も調べています。調べているうちに困ったのが、このジャンルをどう定義するかということです。特定のアニメ作品の声優さんたちのコンサートは含まれるのかとか、わかんないんですよ(笑)。市場規模に何が含まれて何が含まれない、あたりから既にわからなくて、結構色んな人に会いに行きました。結論としては今のところ日本国内では既存の二次元ビジュアルがある作品をベースに、物語がある作品として舞台で演じられているものを2.5次元舞台と分類しているそうなんです。なので、アニメ作品の声優さんのコンサートとだとストーリーがないので2.5次元系舞台には含まれないわけです。2003年にミュージカル『テニスの王子様』※が登場したこともあり、市場規模を語るときは2003年から売上の推移を出している情報が多いのですが、それを観ていると2010年までは売上の上下が激しいんですね。その要因は、『ベルサイユのばら』が宝塚で上演されていたかどうかだったんですよ。2000年代の2.5次元舞台の市場は、宝塚に2次元原作の作品がかかるかどうかで、市場規模が大きくぶれてしまう程度だったということですね。
ところが、『テニスの王子様ミュージカル』の成功が大きくて、徐々に演目も観客も拡大し始め、2010年頃からは宝塚で何が上演されようとビクともしないくらいの売上規模になってきています。そこは潮目が変わったタイミングかもしれないですね。
※週刊少年ジャンプ(集英社刊)にて連載された許斐剛による少年漫画『テニスの王子様』を舞台化したミュージカル (通称・テニミュ) 。2003年から公演が始まっている。
いまでは『テニスの王子様』のミュージカルは役も代替わりしてついに8代目まで続いているくらい人気です。そういった人気作品が牽引して2.5次元舞台全体が人気になっていきました。大きく牽引したものの一つが『弱虫ペダル』※です。自転車を舞台に上げて走らせることをせず、役者さんがなんと自転車のハンドルだけ持ってレースを再現するという、何も知らないで観たら何がしたいのか全く分からないんですよ(笑) 絵面のあまりのシュールさに、当初はネタっぽい意味合いで結構話題になりましたが、見に行った人が「良かった」と次々に口にして、評判が広がっていきました。そうして演目が増えていって現在に至っています。
※渡辺航による日本の少年漫画作品。自転車競技を題材にした本格的なスポーツ漫画である。2012年より公演が始まる。
補足すると『テニスの王子様』や『弱虫ペダル』の男性版として『ラブライブ』があります。作中のアイドルを演じている声優さんが同じ服装・同じフォーメーション・同じ振り付けで曲を歌うライブを開催するというものです。キャラクターがアニメから飛び出してきたみたいな感覚と舞台上の映像による演出効果も相まって、いままでにないエンターテイメントになっています。そもそも紙とかマンガとかリアルじゃない3次元じゃないという意味で2次元と呼んでいたものが、3次元に飛びだしてきているから、2.5次元と呼んでいるんですね。それが0.5の意味だと思います。
マンガ原作を映画やドラマなどの実写映像にする場合、ファンの方はどうしてもマンガをどれだけ忠実に再現しているかをチェックしながら視聴してしまう傾向が強いそうなんですね。ある意味、期待も大きいんですよ。だから、視聴者は“あそこのシーンは省かれた”、“あのキャラクターはあんなこと言わない”、“あのキャラクターの動きが悪い”、”主人公の暮らす街はこんな感じじゃない”といった感じで、減点方式で観てしまう分、完璧でないと評判が悪い方向に進んでしまいます。ところが、舞台だとはじめから“再現できるわけがない”と思ってお客さんが、想像で舞台上を補完しながら、加点方式で観てくれるので良い感じに伸びていけると、舞台関係の方がおっしゃってたんですよ。なるほどなあと思いました。実際、私も2.5次元舞台はまだ広がっていくと思います。
では、ここでまた話題を変えまして、片岡さんに2016年度秋のアニメの分析をして頂きましたので、そちらをお話いただきましょう。