Gプレス
テレビを取り巻く環境変化とテレビメディア価値の最大化に向けて
インターネット、特にスマートフォンの急速な普及により、テレビの視聴行動も大きな変化を見せ、在京民放5社が連携したキャッチアップサービス「TVer」もスタートするなど、テレビビジネスも対応を模索している。そこで株式会社電通ラジオテレビ局専任次長の二瓶浩一さんに「テレビを取り巻く環境変化とテレビメディア価値の最大化に向けて」をテーマに語っていただいた。
Gプレスvol.144 2016年8月10日、電通ホールで開かれた講演 より
二瓶浩一さん
株式会社電通 ラジオテレビ局 専任次長
にへい こういち 1988年、筑波大学第二学群人間学類 卒業後、㈱電通入社 ラジオテレビ局ローカル業務部。
2009年出向、 ㈱ジュピターテレコム 広告営業本部長。2014年帰任、 ㈱電通 ラジオテレビ局 専任次長 兼 デジタル&グローバルビジネス推進部長
テレビ視聴時間の減少が加速
データから見る「テレビ」を取り巻く環境変化。広告主のマーケティング手法の変化。それに対応する広告会社、調査会社の対応。昨今の動画関連のサービスについて話をさせていただきます。
内閣府調査によると、2000~14年の世帯主29歳以下のテレビの普及率は約90%。00年、05年、10年、14年のそれぞれ11月第1週をサンプルにしたもので、年々テレビを見ない人が増えていおり、中でも東京エリアのM1層(24〜30歳男子)でテレビを見ない人は、00年が1.9%だったのに対し、14年は13.1%になっています。
本来テレビが100%普及しているという前提でビジネスをしているわけですが、ターゲットに限っていえば、テレビ普及率90%に、テレビ視聴行為者率87%を掛けると、ターゲットのM1のコンディションというのは78.3%しかいないという事実をどのようにとらえていくかが大切です。
00年の「起床在宅時間に占めるメディア接触行動」では、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネット(PC)、インターネット(モバイル)の中で、テレビが圧倒的にあった上で、ラジオや新聞がそこそこあり、そこにインターネット(PC)が登場したという形になっています。15年を見ると、テレビの接触時間も減り、起床在宅時間に占めるテレビの割合が減っています。M1では、00年は32%だったものが、15年は23.4%。F1では37.3%が27.1%。一方でPCとモバイルのインターネットのボリュームが増えてきています。
13年の試算によると、23年にはテレビの地上波民放の(視聴時間が)20分ぐらい減るのを覚悟しないといけない。同じ試算を16年で実施すると、15年は149分。実は149分というのは、2013年時点で18年ごろの予測をした数字で、3年前倒しという厳しい結果になっていて、この3年間で大きな変化が起きています。
リアルタイム視聴と録画再生視聴による1日当たりのリーチについては、08~12年までの推移を見ると、録画再生視聴の割合がトータルで補完していましたが、13、14、15年では残念なことに補完が間に合っていない様子が分かります。リアルタイム視聴のリーチの減少が続いており、補完する形で録画というのが全体的に継承している。ここにどんな手を打つべきか考えないといけません。リーチを構成で見ると、録画再生視聴でしか届かない視聴者が比率として拡大している様子が分かると思います。
動画配信に市場のポテンシャルが
配信系動画アプリの利用時間ですが、スマホ利用者全体は、10~60代で1分に満たない数字になっていますが、配信系動画利用者に限っては(10~60代で)20分前後となっています。驚きなのは、60代の方々が配信系動画利用者(の数字で)は、男性が49分、女性が68分となっている。アプリを介した動画利用実態というのは、これから伸びてくるでしょう。利用者全体で考えれば、ここに市場のポテンシャルがあるといえます。
通勤通学中における動画視聴コンテンツを分析してみると、若年層には音楽系ジャンルの人気が高い。この中で見られているのが、報道・ニュース、スポーツ、バラエティー、ドラマ、アニメなどテレビ由来のコンテンツがとても多いということです。テレビ受信機での動画視聴の実態は「あなたがテレビ受信機で動画をご覧になっているネット動画サービスをすべてお選びください」という質問を1200人に聞くと、ユーチューブが(73%と)圧倒的に多い。次にニコ動(32%)、Hulu(28%)、GYAO!(23%)という数字になっています。ここではTVerが(サービスを)開始していない段階のものです。放送局さん由来のサービスが支持されるポテンシャルを感じます。
テレビの価値の可視化にチャレンジ
テレビを取り巻く環境の変化という中で、広告主のマーケティング手法も変わり、それに対応する広告会社や調査会社の取り組みも概観していきたいと思います。広告主のマーケティング戦略の高度化を示す一例として、売り上げに影響を与える要因をデータ分析して、テレビ媒体出稿を含めたマーケティングプランを立案する「マーケティング・ミックス・モデリング」と呼ばれる手法が注目されています。マーケティングの要因は、メディア、出稿の状態、プロモーションや価格だったり、季節性や天候、経済状況、競合環境などのベースの情報を四つぐらいのカテゴリーで継続的に分析してみますと、何が売り上げに寄与したかというカテゴリーモデルが作れます。たくさんの経験値を積み上げることによって、いろいろな予測ができ、テレビ広告、店舗アフィリエイト、アフィリエイト広告が寄与しているというのが分かります。
効果的かつ効率的なメディアプランニングを行うために、テレビCMとオンライン広告の出稿をどう最適化するかというところに一生懸命、知恵を絞っているところです。15年4月に博報堂が先行して、テレビクロスシミュレーターというものを発表し、追っかける形で8月に電通クロスメディアプランナーを提供しました。いずれにしてもプランニングの上でテレビというものが欠かせません。クライアントニーズの高まりを受けて、動画広告を始めとするデジタル領域強化のために、博報堂は「動画ビジネス局」を、電通は「電通デジタル」を設立しました。両社とも、新組織対応をもって、市場変革のスピードに対応していこうとしています。
さまざまな具体的取り組みを進めていますが、その中の一つとして、電通は1月に「TV Live Meta Modle(ベータ版)」を発表させていただきました。これはテレビ番組やCMの放送内容に関するオンエアデータを限りなくリアルタイムに活用できるモジュールです。発表後、多くのクライアントから問い合わせをいただいています。ビジネスの実用段階、セールスまでには至っていませんが、さまざまなカテゴリーの商材を試すビジネス実証の準備を進めています。これも一言で言えば、テレビの価値の可視化にチャレンジする試みです。
また、電通は3月に「STADIA(スタジア)」を発表させていただきました。これは、マスメディアとウェブ広告の相乗効果を最大化する取り組みで、現在、ビジネス実証のステージに入っています。さまざまな視聴ログがありますが、電通が注目しているのは、ネット結線されたテレビメーカーの録画再生情報やアプリ起動情報も含むログや、放送局が自ら収集する視聴ログです。これらの視聴ログをSTADIAに入れて(特定の視聴者が)この番組やCMを見たであろうと推測し、実際にリアルなデータで見た人に、ウェブ上でリターゲティングできるという取り組みです。今まで、そこはかとなくメリットや価値を語り続けてきましたが、“そこはかとない”部分をいかに可視化し、テレビを見た人がいろいろな行動をしてるよね、いろいろな情報をテレビを起点にして発信しているよねというところを、テレビの価値として伝えていくという試みです。
さて、調査会社の対応ですが、ビデオリサーチは10月から関東エリアのテレビ視聴測定のカバー領域について、視聴形態の変化や分散化への対応のために、サンプル数の拡大や、テレビとインターネットの関連性を可視化するという方針を発表しています。約6、7年かけて研究してきたタイムシフト視聴のサンプルと、現状のサンプルを合わせることで、リアルタイムとタイムシフトの両方の視聴率調査を高度化が実現します。さらにスマートデバイスまで測定対象にし、無料のキャッチアップサービスであるTVerに関しては2015年から「Ad-Valueパネル」という形で測定対応をしています。先々のテーマと言い切れなくなってきた再送信に関しても検証し、提供のあり方を検討していきたいとしています。
それから、その他の調査会社にもいろいろな動きが起きています。インテージの「シングルソースパネル」は、購買データやメディア接触データなどを同じパネルで取るというもので、クロスプラットフォーム対応のために「インテージ・ニールセンデジタルメトリクス」を立ち上げています。また、ニールセンは、世界標準で展開するデジタル広告視聴率(DAR)を日本でスタートすることを15年7月に発表しています。テレビ視聴率と同様のリーチやGRP指標を用いて、PCやモバイルなどのデジタル広告の包括的な分析が可能になるというものです。
デジタルインテリジェンスは、テレビCMのアクチャルをリアルタイムで分析する「CMARC」。サイバーエージェントの「Low TV Focus(ローテレフォーカス)」は、テレビCMだけではリーチできていない「ローテレ層」を見つけ出し、その人たちにネットでこんなことをしましょうと、ある意味、テレビのマーケットに寄り添ってくるサービスです。
テレビのそこはかとない価値を可視化
昨今の動画関連のサービスですが、皆様、関係者、生活者としてサービスに触れていると思いますが15年から今に至るまで振り返ると、たくさんの出来事があったと思います。去年9月のネットフリックスのサービス開始はインパクトがありました。それからAmazonプライムも発表されました。10月にTVerがスタートし、感覚的にぎりぎり間に合ったという思いです。4月にAbemaがスタートし600万ダウンロード。TVerは発表ベースで300万ダウンロードなので、Abemaの快進撃と言えます。キー局のほか、大阪のYTVが「MyDo!」、毎日放送が「MBSオンデマンド」を始めたりもしています。同時再送信に関しては、NHKが非常に早い動きを見せています。とくにリオ五輪においては、さまざまな取り組みもしています。民放の中でもTOKYO MXの「エムキャス」、フジテレビもCS3波をサポートしています。
広告マーケットという形で見たときに、どうなのかということなのですが、オンラインビデオ総研が発表された推計によると、インストリーム広告、インフィード広告、インバナー広告などがありますが、テレビ目線でいうとインストリーム広告がマーケットになると思います。16年の567億円に対し、20年には1365億円になるという予測を立てています。
TVerが始まる前、14年の夏ごろ、電通はタイムシフト・キャッチアップ・再送信など、これからのテレビビジネスの全体像についてどう考えるべきかを提案する機会をいただきました。テレビビジネスで何が起きているかという認識力が問われ、放送業界、広告業界は解決力と実行指導力が試されており、電通には少なくともその強い自覚があると申し上げるところから提案は始まりました。世の中の変化・生活者のニーズと広告主のニーズの変化に答える形で、あらゆるデバイスでテレビ番組を視聴・接触していただき、その到達価値の総和を最大化していくということ、さらには、テレビのそこはかとない価値を可視化し、質的な価値を掛け合わせていくことで、テレビの価値はさらに拡張すると考えています。
タイムシフト、キャッチアップでテレビ広告の新たな価値を
2020年の広告ビジネス領域をマネタイズエリアの拡張という考え方をもって臨みたいと考えました。リアルタイム視聴時のCM到達価値を中心に、クリエーティブ連動施策やターゲット向け連動施策を施すことが、これまでのマネタイズエリアとするのであれば、タイムシフト視聴を可視化し、キャッチアップ配信のスタートで若年層を中心とした届かぬ層へのサービスの提供を試みることがこれからのマネタイズエリアであると考えます。
また放送後の番組のメタ情報を使って、いろいろな施策や視聴者のさまざまなデータを活用し可視化することで、いつ誰がどんな番組を、どのサービス、どのデバイスでどれくらい見ているのか、さらには視聴後にどのような行動を取ったのか。テレビが果たしている役割を可視化することで、テレビの価値をいかに最大化し得るかというテーマにも取り組んでまいります。
繰り返しになりますが、量的価値の最大化による市場拡大と、デジタル環境で得られる様々なデータを駆使した質的価値の掛けあわせにより、テレビ市場全体を引っ張り上げていくことが必要だと考えます。