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シェイク!Vol.4 面白いアニメとは何か考える(4)
那須惠太朗(サンテレビ)×片岡秀夫(東芝映像ソリューション)×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)
シェイク!Vol.4「面白いアニメとは何か考える」のトークセッションの模様の4回目。
今年エンタメ業界の話題として事欠かない「君の名は。」と「シン・ゴジラ」。
今回は「君の名は。」の話題を中心に。(※かなりネタバレ要素があるため注意)
君の名は。VS シン・ゴジラ
「君の名は。」ですが、新海監督は僕の少し下の世代になるんですが、同じ……例えば80年代のクリエイティブに影響を受けてきた世代になるんですね。例えば彼が一番好きだったって言ってる村上春樹の本の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」は完全にパラレルワールドの世界で、違う世界同士の人たちが、話としては別々に描かれながら、ある時点で一緒になってまた離れていってそれぞれの話で解決していく……。あとは「転校生」的な男女の入れ替わりであったり、少し前の作品だったら大江千里の音楽であったり。まあそういうものに影響を受けてきた人たちのアウトプットとして「君の名は。」があるというのはすごく自分の中でシンクロしやすいところがあって、さすがだなと思って見てました。
ただ一つ分からなかったのがなぜあんなに成功したのかっていうことですよね、興行的に。すごく不思議に思って自分の知り合いのアニメ会社の人、映画会社の人、出版業界の人とかにいろいろ話を聞いたんです。その人たちが口をそろえて言うのは「今回は東宝さんがすごかった」「東宝さんの底力がものすごかった」。アニメ映画の製作は遅れに遅れることが一般的な傾向で、公開1週間前くらいにようやく試写ができますみたいなこともあったりするんですけど、今回は公開1カ月前に完成させて、完成披露試写をやったという「スケジュールを守らせた」のがまずすごい。その後、劇場にアプローチしてトレーラーをいっぱいかけてもらい、SNSの反響を見ながら劇場を開けてもらうこと約300館。週末に5~6回上映の高回転が可能な本編尺。さらに言うならば、完成披露から公開までの1カ月間、絶大なプロモーションの機会があったわけですよ。「シン・ゴジラ」の上映中に必ず「君の名は。」の予告が流れてたんですよね。これがプロモーションとしてものすごく効いていた。
ちなみに東宝さんは過去、「いま、会いにゆきます」という竹内結子さんの映画が当たりましたけど、あれは秋の公開なんですね。10月に公開した日本の恋愛映画にも関わらずヒットした作品なんですよ。なんでそうなったのかというと、実は夏に劇場でものすごく予告を打ちまくっていて。映画を見に行く人はそもそも映画を見に行く癖があるので、そこで最大限見る気にさせて。普通だったら夏に公開するのにあえてずらしたことでものすごく当たったという実績が10年ぐらい前に東宝さんはお持ちで。まさにそれをやった感じかなと思います。
あとは音楽系の方が言っていたのが、実は初速の最初の1週間の売り上げって、ものすごかったと思うんですね。それがニュースに出て、みんなが注目した。実はあの裏には前売り券が売れていたという実績があると聞きました。その前売りを支えてるのは、「RADWIMPS」のファンの人たちで。それが初週の売り上げにドンっと乗っかってものすごい興行収入になったと。その最初のニュースで「見なきゃ!」と思わせた裏に「RADWIMPS」ファンというものすごく熱い人たちが実は下支えしていたというのが大きいのかなと。
ファンからすると、彼らは普段、劇伴を作らない人たちなんですね。だけど、監督が好きだから、声をかけたら受けてくれて。僕も「え、RADWIMPS が全部やってるの?」って思って聴いてると、ピアノがぽろぽろ出てくる場面の音楽とか、いい味出してるんですが、ある意味、劇伴的には「やったみた」みたいな感じなんですよね。ただ、インタビューを読んでいくと、それを作るにあたって、もう監督とのやり取りを毎週のようにやっている。設計図である映画のカット割りを6カ月、毎日15時間やりまくって、骨格ができていたから制作が遅れなかったんだろうし、その設計図と音楽を1年半アーティスト本人とピンポンして監督が仕上げる。だから音楽クリップ的なリズム感だったりビートのある映像になったんだと思うし、音楽ファンもそこまで自分の大好きなアーティスト自らが入れ込んだ映画だったら、ある意味 RADWIMPS のPVのようなものですよ。
ところが、さらになぜヒットしたかっていうのは、(新海監督が所属する)コミックス・ウェーブ・フィルムの川口典孝社長が、とにかく天才の新海さんを盛り立てるために、地方の劇場に連れて行って、トークショーをやり、サイン会をやり……めちゃくちゃアナログなファンとの集いをセッティングして。そういう地道な活動があり、新海作品がバイブルになっちゃってる人たちが、「今度こそ来た!」って動いたのがブーストになってるのかなあ、というのが、境治氏のインタビューでも語られています。
そうですね。川口さんと新海さんには会ったことがありまして。まだメジャーでないころで、「アニメーション神戸」っていうアワードが昔あったんですね。そこで新海さんが2回受賞されていて、授賞式に来られたときに懇親会でお話する機会があったんですけれども、新海さんはトツトツと話されるんですけど、川口さんの熱さが印象に残っていて。うちみたいなローカル局に対しても、「何か一緒にやりましょう!」「新海くんはすごい奴なんですよ!」っていうことをものすごく熱をもってアピールされるんですよね。作品を実際に見てみると、インディーズ系な感じだけど、すごく刺さっていいわけですよ。だからコアにファンが増えていくというようなことが、熱量の中にあったっていうのはうなずける話ですいよね。
「RADWIMPS」の話で言うと、野田洋次郎さんが表紙の雑誌、新海監督との密なエピソードがたくさん載っているんですね。私は読んでいて、あまりの濃さにびっくりしたんですが(笑)、今にして思えば、新海監督も野田洋次郎さんもツイッターをやられているので、2人の交流が実はじわじわとファンの人には見えるようになっていたんですね。最近ちょっと話題になりましたが、(瀧の声を演じた)神木隆之介くんがアニメの収録はとっくに終わっているのに、新海さんの作品を見るたびに本人にメールで伝えてきて、「神木くん、もう仕事終わったからそんなことしなくていいんだよ、と思うけど、僕はうれしい」みたいなツイートを新海監督が流したり。そういうものが実は素地として、裏にじわじわあったんだなって。
それから、本屋さんも今回すごいですね。(原作小説の)「在庫が切れました」「入りました。お早めに」って全国の本屋さんがつぶやくのを、新海さんプロモーションツイートが全部リツイートするんですけども、出版業界、書店の方々がすごく応援しているんですよね。そして、東宝さん含め映画会社やらスタッフの方々、制作陣が、個人として愛をもって宣伝した。だから結局愛されるってことがこれだけの原動力を生んでるんだなって。