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シェイク!Vol.4 面白いアニメとは何か考える(3)
那須惠太朗(サンテレビ)×片岡秀夫(東芝映像ソリューション)×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)
シェイク!Vol.4「面白いアニメとは何か考える」のトークセッションの模様の3回目。
今年エンタメ業界の話題として事欠かない「君の名は。」と「シン・ゴジラ」。
今回は「シン・ゴジラ」の話題を中心に。(※かなりネタバレ要素があるため注意)
君の名は。VS シン・ゴジラ
次に、この夏のヒット映画の「君の名は。」と「シン・ゴジラ」について。
われわれの中でも「シン・ゴジラ」派と「君の名は。」派、中立派に分かれていまして。私から口火を切っちゃうと「君の名は。」っていうのは、どちらかというとすごく感性的な楽しみ方をする人の受けがいい。「シン・ゴジラ」は、完成度やこだわり、ディテール、ガジェットも含めて、理系寄りというかロジカルな人たちにウケがいいのかなと。
私は3回「君の名は。」を見て、あと2回見に行くつもりなんですけど(笑)。1回目、2回目は物語とか映像の美しさとかに引かれるんですけど、3回目以降はだいたい分かっちゃっている。それでも「何で見るんだろう?」と考えたときに、気に入ったCDを繰り返し聴くのと変わらないなって。そこに映像がついていて物語もあるけれど、音楽だって物語があるし、世界観もあるし、空間や風景もある。そういうのとすごく通じるなって、そう思ってたら、実際に監督さんも同じようなことを話していて。一つの音楽のように、リズムだとか、テンポだとか、カット割りのバランスをトコトン考えたって。あとは、ある方が評論で書いていましたけど、主題歌がせりふにかぶるっていうのは、映画的には普通せりふを聴かせるので、けんかするからよくないんだけど、でも歌詞とかも論理じゃないんですよね。要するに音楽の中のエッセンスの一つとして言葉が散りばめられている。
私は一応「シン・ゴジラ」派ということになっていますが(笑)、「君の名は。」を見て、悪かったわけではないんだけど「うーん」って。片岡さんが言われた映像として「すごく気持ちよくて」というのは完全同意なんですけど、でもそれを上回る「え??」っていうのが私の中に残っちゃって。いい映画だったけどうーん……みたいなところがあったなって。私は新海さんの過去作品も見ているんですが、とあるツイッターのユーザーさんが「今日『君の名は。』を見てきた。俺たちは今まで新海さんの原液カルピスを飲まされていたんだ。ようやく水で薄められて飲めるカルピスになってた」と書いてあって、「その通り!」と思いましたね(笑)。よく「君の名は。」をエロゲー文脈で語るの見かけますけど、いわゆるエロゲーって主人公の男性のキャラクターってキャラが薄いんですよね。プレーをしている人間が主人公に没入していろんな女の子を選んだり、いろんなイベントを選びながらやるものなので、主人公のキャラクターがものすごく濃いとプレーヤーにとっては邪魔になってしまう。
新海さんのアニメって非常にそういうところがあって、自己投入を男性はしやすいように私には見えるんです。だから正直、新海さんのキャラクターは特徴がなく思える。さらに、女性キャラも脳内妄想彼女感が強くて、その助成が実際はどんな人なのかは割とどうでもいい(笑)。今回の「君の名は。」は、主人公の三葉ちゃんに代々受け継がれている血脈があるとか、彼女がヒロインである理由がものすごくちゃんとあって。キャラクターもすごく立っていたのでついついだまされてしまってですね。普通のアニメのように見た結果、瀧くんという男の子の主人公がめっちゃキャラが薄いままなわけですよ。で、瀧くんがなぜ三葉ちゃんと入れ替わるのか説明もないまま、終わった様に感じられて「えーっ?!」てなったんですけど(笑)。でも数日たってから「いや待て、これは新海さんの作品だった。没入できるようにできているからキャラが薄くていいんだ」って。薄くていいんだけど、女性の私としてはもっと理由がほしかったなーみたいなことを思い始めたりするとなんかいろいろと引っかかることが出てきてしまって。ただ、若い女の子にはめちゃくちゃ受けてるんですね。若いとやっぱり三葉ちゃんに感情移入ができて、私もああやって男の子と入れ替わりたいっていうピュアな気持ちが持てるみたいなんですけど、さすがに私のように40歳になるとそれは無理かなって(笑)。三葉ちゃんにも感情移入できず、瀧くんがなぜ瀧くんなんだろうって思ったまま、ずるずる終わってしまい、もやもやして。ちなみに夫と一緒に見に行ったんですけど、彼はあの世界観にどっぷりハマって、昼寝をするためだけに「君の名は。」を見にいってもいいって。「あの世界を浴びたい」って言ってます。言っていることは分かるんですけど、そこには溝がある。
ちなみに「シン・ゴジラ」は6回見に行きました(笑)。「シン・ゴジラ」にハマったのは、理系っぽいナゾトキ感ですかね。こことここが確実につじつまが合っていて、生物学的にとか、SF的にとか。でも、ここがどうもつじつまが合ってなかった気がする……と。でもあの作りでつじつまが合っていないってことは絶対ないよな、私が何か聞き逃しているに違いないって2回、3回と見ちゃったりとかしてるんですけど。たとえば、京急ってステンレスの車両なんで重いんですね、JRの車体は軽い金属で作られているので、車両の重さがぜんぜん違うんですよ。というのをたまたまJRの人から聞いて知っていた中で、映画を見たら、車体の飛び方にあきらかに重さの違いが出ていて、「やばい!ちゃんとCG計算してある!」みたいな(笑)。そこに気づくと、じゃあもっといろいろあるはずだって。そうすると、周りの理系の人たちが「どうも血液凝固剤って言っていたところに、抑制剤っていう言葉も出てきた気がする。血液凝固させたいのに抑制させてどうするんだろう。分からなかったから、2回目行くならきちんと聞いてきてくれ」と言われて。見に行ったときに、初めてゴジラに投入していたのは凝固剤と抑制剤の2種類で、よくよく見てみると、凝固剤は化学物質だから経産省の人が引き取りに来ているけど、抑制剤は薬剤だから厚労省の人が取りに行ってる……「よくできてるわー」みたいな。そういうことを見始めていって、どんどんどんどんおかしくなって6回になっちゃったんです(笑)。で、中立の那須さんは?
私、基本的に好きな作家の作品は全肯定派なので、どんな傑作もどんな駄作もすべて受け入れるところから始まります(笑)。「シン・ゴジラ」は、僕、庵野さんの実写作品すごい好きで、それこそ昔の「DAICON FILM」の特撮のころからずっと追っかけて見ていて。「シン・ゴジラ」に関しては、(自分よりも)少し上の世代の方が作った作品でして、すごくリスペクトしながら見ていました。「ワンダーフェスティバル」っていう造形物の祭典がありまして、そこでも今夏は「シン・ゴジラ」祭りになっていましたし、たぶん冬の祭典では、「蒲田くん」とか「品川くん」とかがいっぱい出てくると思うんです。それだけすでに波及効果があったっていうところは評価していいのかなと思っています。