• シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2nd(5)<br>伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2nd(5)
伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2ndの連載最終回は、ここまでの話の流れから見えてきた企画するときに必要な目線について話を深めた。

対話から見えてきた「企画に大切な目線」

伊藤

他に質問はありますか?

観客E

ねじさんが独立した理由についてもう少し聞きたいです。どうして会社の企画だとダメで、個人の趣味でやるとよかったんですか? 考え方がぜんぜん違うんですか?

佐藤

個人でやってるものはマネタイズできないものが多いんですね。小さすぎて広告にならない規模のものとかが多い。

米光

会社だと、はなからこの枠でやってくれっていう制約があるわけですよね。ねじさん個人がやっているのって会社単位ではできないぐらいのアイデアだから。

佐藤

「変なWEBメディア」には白地に白い文字で書かれた「コピぺしないと読めない記事」があります。わざわざコピぺして読む体験をすることによって届けられることがあるだろうとか、いろいろな思いがあるんですね。でも、それは広告ではなかなか通らないです。なるべく通すようにいろいろ用意してはいるんですけど。

米光

個人でやるほうがやりやすいし、やることの幅は広がるからね。

佐藤

会社でやった仕事で、いろんな意見を取り入れたら角が丸くなって、結局スベったことがありました。でも、それ、ほんとは面白いのになって思ってた。それを制限なしで個人で出してみたら受けた。間違ってなかったんだなーっていう、そういうことはありますね。

米光

いやでも、個人でやっているものでも、話題にならないものもあるよね?

佐藤

あります。むしろ個人では、話題にならないものをやろうとしています。話題にならなきゃいけないっていうのもひとつの制約ですから。いいものって結局、話題の数ではないと思います。それよりも自分の信頼する近しい人に「いい」って言ってもらいたい。そういう思いがぼくはすごく強い。

観客E

目線が違うってことなんでしょうか。

佐藤

仕事だけをしていると、自分がほんとうに面白いと思うものがどんどんわかんなくなっちゃうんです。

伊藤

独立したきっかけって、明確にはどこにあるんですか?

佐藤

おもには作品のためです。経費を使えることによって個人作品のサイズを大きくすることができる。いままでは給料のなかの自分のお金でしか作品が作れなかったけれど、会社にすることによって作品が会社の仕事になるので。サイズを大きくできます。前はフィーを友達に払えなかったりしたけど、いまならできる。さっき話したボードゲーム制作も、個人だけでやると限界があるので。

伊藤

……いま聞いていて思ったんですけど、個人の目線って大事ですね。

佐藤

うんうん。

伊藤

ADのときに言われたんです。「テレビはね、60代以上が見ないとダメなんだよね。それが分からないでディレクターはできないから」って。会社には各世代いるんだから自分の世代を狙えばいいのに、どうして違うことを考えさせるんだろうって思った。ぼくは自分と同い年の1972年生まれが見たいものを作る。それだけでいいって思ってる。

佐藤

わかりますね。人間はたくさんいるんだから、自分がほんとうに面白いと思ったことを追うほうが世界全体から見ても意味のあることだと思います。

伊藤

米光さんだって、自分が飲み会でゲームをやりたいっていう個人の目線からのスタートですもんね。米光さんは過去になにか飲み会で嫌な思い出とかあったんですか?

米光

それを話すとね、ここから90分必要なので。

佐藤

あ、いまネタを拾おうとしている?

伊藤

米光さんの闇に入っていきたい(笑)。

米光

倉本聰脚本の「やすらぎの郷」見てる? お昼にやってるジジィドラマだけど、あれには勝てないもんねー。あの年代の人にしか作れない。

伊藤

そうですね。

米光

だって、放送時間の15分えんえん「俺の考える夢の老人ホーム」の説明で終わっちゃうんだよ? しかもそれが面白い。世代の違う人がいくら考えてもあのリアリティは出せないもんね。

伊藤

自分の企画が世代の違う人に違和感を持たれることもありますよね。会社の50代に「ねえそれ面白いの?」って言われたら「いや面白いですよ」って、勇気を発動させて言っていけばいい。

米光

そうね。ぶつかるのを恐れないというか、そもそもぶつかるものだっていうのは前提としてあるかもしれない。

伊藤

だからぼく、20代の人がテレビをどう思ってるのか本当のところを聞きたいです。若い世代とテレビとの距離感を知るために、正直にものを言ってもらいたい。

米光

若者は意外と正直にものを言わないんですよねー。優しいからこっちに合わせてくれる。

伊藤

若者はテレビを見ないっていう答えはもう出てるんですよね。時間を売っていく時代は終焉を迎えます。だからこのタイムテーブルをひとつのリストと考えようと思いました。魅力的なコンテンツがいろいろあるデパートみたいなものです。うちの会社は強いコンテンツのかたまりをもった最強軍団だと捉えると、血眼になって月曜19時にこれを見てくれとか、視聴率がって言ってるひとたちの議論は変わっていくでしょう。見なくなったことを前提にしないとテレビ局も変わっていけない。お台場も変わっていけない。自分の子供も、もうリアルタイムで見るという意識はないです。「お父さんがやってるこの番組、この時間しか放送してないんだよ」って言ったら「えーどうして?」って5歳のこどもが言うわけです。この子たちが20代30代になったらそういう距離感ねってわかるじゃないですか。だから勇気を持って「もうテレビは完全に見ねえよ」って言う社員が欲しい。時間なので、最後にひとことずつ言いますか。

佐藤

失敗したら全力で謝るっていうのは、いままでやってこなかったなあと。場を作って人を泳がせて眺めるっていうのも面白いなと思ったから、このふたつを試してみようと思いました。

米光

ぼくは今日学んだことがふたつある。ひとつは、ねじさんも指摘した枠の話です。枠を作ったとき、常にもういっこ広い枠を設定するっていうのは大切だなと思った。もうひとつ、ぼくもiPad Pro買おうと思った。ねじくんが使ってるの見たら便利そー。

伊藤

そうとういいみたいですね。

佐藤

みなさん使ってます? iPad ProとApple Pencilがあるとアナログノートと同じくらいの書き心地です。

観客F

アプリはなにを使ってますか?

佐藤

アプリはGoodNotesです。

伊藤

ぼくは、素直に年をとっていこうと思いました。44歳になって言えたことがあって。いま古舘伊知郎さんと仕事してるんですけど、言えたんですよ。「あの、怖いです。ほんとはめんどくさそうだなって思ってます」って。

佐藤

本人を前に?

伊藤

初めて会ったときに言いました。「めんどくさい人を揃えました」っていう企画にしたんですね。ぼくが楽したいから。

米光

めんどくさい人が集まると楽なの?

伊藤

めんどくさい人同士でやり合ってくれるからぼくが関わらなくてすむじゃないですか。で、古舘伊知郎さん、坂上忍さん、千原ジュニアと、うちの演出家の佐久間っていう優秀なんだけどめんどくさい奴と、その4人がいれば回っていくだろうと。なんかね、素直に言えたなーと思って。

佐藤

なるほど。

米光

うんうん。

伊藤

楽しく歳とっていきましょう。

(終わり)

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