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シェイク!Vol.8 面白いアニメとは何か考える 2nd(3)
那須惠太朗(サンテレビ)×片岡秀夫(東芝映像ソリューション)×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)
シェイク!Vol.8「面白いアニメとは何か考える 2nd」のシリーズ3回目は、前回も好評だった片岡氏による2016年度秋アニメの分析と、特徴的な結果の考察についてお届けする。
よろしくお願いします。東芝のテレビ)REGZAの上で「TimeOn みるコレ」というサービスをやっていて。その視聴ログでアニメなどの番組視聴傾向を分析しています。
結果的には1位が『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』(以下、『オルフェンズ』)、2位が『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』(以下、『ジョジョ』)、3位が『3月のライオン』、『ハイキュー!!』、『亜人』……といったように続きました。
分布を見てみましょう。横軸にライブ率、縦軸に(録画)再生率で出したところ、『オルフェンズ』『ガンダム』は日曜夕方ということもありライブ率が高いけれども再生率も高い。『ジョジョ』は圧倒的に再生率が高いですね。『3月のライオン』、『ハイキュー!!』、『亜人』はどれも再生率の方が高いですね。ちなみに、総視聴量(ライブ+再生率)が大きいほど丸の大きさが大きくなって人気があることになります。
ほかにも見ていくといろいろありますが、目立つのは『クラシカロイド』。ライブ率が『オルフェンズ』の次に良いですね。これはNHKさんのEテレで放送された番組ですが土曜日の夕方で時間帯が良いのと、他のアニメとは違う客層を捕まえているのだと思います。
時間がなかったので上位5作品を、我々が3率と読んでいるライブ率・再生率・予約率で、それぞれ比べると順位が入れ替わります。ポイントはこの3つの指標があることによって必ずしもライブ率だけでは語られない、作品の実力や観られ方の特徴を掴めることです。それを見ていきましょう。
『ジョジョ』が再生率が高いですね。これはマンガがヒット作品だということも考えると、おそらくファンがもっとも「次が観たい」「楽しみ」と思っている作品だと思います。時間帯的には夜中なのでどうしてもライブ率は少なくなってしまう。こういった傾向があります。
逆に『オルフェンズ』は時間帯が良いのでライブで観ちゃえと。予約率は高いんですけども再生はそれと比するとそんなに上がらないと。とはいえ、再生率は45作品の中で3位には位置付けていますからトップの競り合いになりますが。
『亜人』は予約は高いですけど再生率が下がっているんですね。徐々に下がっている。その理由は、おそらく劇場版(2016年9月23日-2016年10月13日上映)で観た人が再生していないということが考えられます。映画の内容とTVシリーズの内容がほぼ同じなので、TVシリーズは観なくても良いやとなってしまっている。ライブ率も深夜なのであまり高くないですね。そういう変遷が分かります。
データの補足をしますと、アニメファンって、1話や3話まではとりあえず全部の作品を網羅的に観て、その後どれを観続けるか決める「1話切り」「3話切り」という視聴者行動があるんですね。ドラマも初回の視聴率が高くて、その後は徐々に落ちていくだけという傾向がありますけど、アニメはもっと極端に回だけ高くて、一気に落ちて、あとは徐々に下がるものが多いんです。そんな中でこの上位5作品が示す数字の推移は動きが激しいと言えますね。
上位グループだからこその動きですね。
ドラマよりもアニメは、元々の視聴者傾向も含めてTwitterの影響を受けやすいので、途中から急に評判になってみんな見るようになり、人気を獲得したりなど、数字の上がり下がりが激しいのはがアニメの特徴かもしれませんね。
第1話を基準にした残留率を見ると45%まで一気に落ちてしまっています。予約だけでも6割しか残らない。4割は初回で観なくなってしまうということです。ひとつ作品を取り上げてみましょう。女性に大人気だった『ユーリ!! on ICE』です。フィギュアスケートの男子が舞台のアニメですね。CG全盛の時代に手書きで描いているという表現がすごかったのと、BL的なネタがウケた、両方あっての人気だったと思います。非常に面白い出来の良い作品です。
3率を見てみますと、平均に対して予約率は負けていて、再生率は勝っていて、さらに伸びています。ライブ率は平均よりも高くて後半に伸びていますね。深夜帯にもかかわらずです。予約こそ少ないものの全体として1話目以降の数字が伸びている。このようなタイプを私の分類では「ダークホース型」と呼びます。この型の筆頭が『ユーリ!! on ICE』だったので取り上げました。
『ユーリ!! on ICE』はすごかったですね。水曜深夜の放送だったのですが、翌日木曜日の朝にTwitterを開くとトレンドトップ10の7つくらいが全部『ユーリ!! on ICE』になっていました。
そのお陰で、サンテレビでも6週間遅れで放送できました。「どうしても関西でやりたい」と製作委員会からお声掛けを頂き、急きょ編成を調整しての放送でした。人気がすごかったですね。
『ユーリ!! on ICE』は放送が終わった後、“宮崎県だけは1月からまた観られる!”というツイートがあったこともあるくらい、女性の中で覇権アニメ感がありました。この前のコミケのあと、「とらのあな」の女性同人誌コーナーを覗いてみたらTOP30くらいが『ユーリ!! on ICE』で埋まっていたんです。人気をさらっていましたね。
今回、私が初めてやってみたネタとして、「この作品ならではのファン」を試行錯誤して抽出したものがあります。つまり、ある作品を観た人は他に何を観ているかを分析してみたんです。秋アニメの中から総合順位の上位20位をピックアップして、20位同士を掛け合わせてファンの集合を作るという手法を取りました。一見複雑に見えますが、説明します。まず、総合ランキングを出しているデータのすべてをA集合(約100,000人)とします。次に、A集合のうち総合ランキング20位までの番組を視聴した人をB集合(約16,000人)。そのうち、特定の番組を観た人の割合をC集合としました。その上でC集合で散布図を作りました。横軸ではA集合での総合力(総合的な人気)が大きいほど右側に。縦軸は特定作品を観ているファン集合の中で他の作品がどれだけ観られているかを示しています。つまり、グラフ上で左上に行くほど取り上げた特定作品ファンの中だけでよく観られている作品となるわけです。右下に位置する作品は全体としてはよく観られていますが取り上げた特定作品ファンの中では観られていないということになります。
グラフとしては20作品すべてありますが、4作品だけご紹介します。まず、総合順位6位の『舟を編む』です。これを見ると『舟を編む』のファンは他の作品と比べて『オルフェンズ』や『ジョジョ』を観ていないことが分かります。では何が観られているかというと『亜人』『3月のライオン』『ハイキュー!!』『夏目友人帳 伍』『うどんの国の金色毛鞠』などで、これを見るとなんとなく視聴傾向が分かると思いませんか?
ちょっと女性ファンが視聴する比率が高い作品で、好みとしてはゆったりとしたテンポと雰囲気で進む物語を選びがちな人なのかもしれないですね。少女漫画原作のアニメが多い印象です。
『亜人』や『ジョジョ』など多くの人に人気の作品はどうしても上位に来てしまいます。ただ、『舟を編む』ファン内では『ジョジョ』は比較的低い順位になっている。つまり、全体からすると『舟を編む』のファンは『ジョジョ』はあまり欲されていない傾向にあると言えます。面白かったのはすべての作品で上位グループに入ったのが『亜人』というところです。
普遍的な人気なんだということでしょうね。
総括すると『舟を編む』は辞書を編纂する日常世界の人間ドラマですが、これを好むファンが観るのは、同じく若き棋士の人間ドラマを描いた『3月のライオン』や、ある意味「現実世界に別人種が現れたら」という設定における人間ドラマともいえる『亜人』、高校バレーの青春スポ根『ハイキュー!!』、日常に潜む怪異をめぐる人間ドラマ『夏目友人帳 伍』などとなり、つまり、人間ドラマ好きであることが分かります。逆に『オルフェンズ』や『ジョジョ』は架空世界の話なので『舟を編む』のファン層とは違うということです。
2作品目に見るのは『ユーリ!! on ICE』です。『ユーリ!! on ICE』の場合は、上位が『ハイキュー!!』『亜人』『3月のライオン』といった感じで『舟を編む』ファンの視聴傾向と似ていることが分かります。ただ、『ユーリ!! on ICE』のほうが女性向けの比率が上がっているように見えます。総括すると、魅力的な日常ドラマにちょっとしたフィクションを載せているものが好きな人がファンに多いといえそうです。
3作品目は『ドリフターズ』です。知っている方は知っていると思いますが、『ヘルシング』を描かれた漫画家さんの作品です。『ヘルシング』はナチスドイツや吸血鬼が出てきて人がバッタバッタと殺されていくハードホイルドな作品です。
絵柄もアクが強くてワイルドで、いわゆる少女漫画系の絵柄とは対角をなすマンガですよね。
絵柄もお話もエグイ漫画ですよね。『ドリフターズ』も同じような作風なので、そういった漫画が好きな方が観ていると考えると、1~3位に『ジョジョ』や『オルフェンズ』、『亜人』がランクインするのも納得できます。4位の『Occultic;Nine』もアクの強いアニメでしたし、5位の『終末のイゼッタ』もかなりシリアスな戦争ものでした。
異世界で物語が繰り広げられ、謎があって、ハードボイルドで、と伏線が多く重厚な作品群ですね。
そうなると、『3月のライオン』や『ハイキュー!!』は他の作品よりも見られていないことも納得です。総括すると、「架空世界の中で戦うアニメ」を好む視聴傾向だと言えます。そうすると、『3月のライオン』や『ハイキュー!!』など日常世界を描いたものが遠い集合になる。スライドの散布図を見てもわかりやすいですね。
最後の4作品目は『ガーリッシュ ナンバー』。いわゆるオタク・萌えよりの作品なので、これを観ている人たちは今までの3作品とは違う人種なんだろうなと思って分析してみたらその通りの結果になりました。1位が『私がモテてどうすんだ』。これは太っていた女性がとあることから急に痩せて美人になっちゃう話です。学校でモテるようになるのですが、中身は腐女子なのでそのギャップに振り回される周囲と本人……みたいな内容ですね。こういった作品と『ガーリッシュ ナンバー』の共通している部分は結局、ラブコメ的なところだと思います。総括すると、『ガーリッシュ ナンバー』が好きな人たちは、若い職場や学園、仲間たちがいる日常的な空間にラブコメ的な楽しさを加えた作品を好む傾向があると分かります。
3位の『WWW.WORKING!!』は人気があるんですけども、『オルフェンズ』やそういったものと比べると、テンションの上がり下がりというか、物語の山と谷の起伏が薄いんですよね。ずっと同じようなテンションでストレス無く楽しめる作品になっています。会社帰りで疲れた深夜に観るにはちょうどよい娯楽として成立しているんですね。いままさに私が忙しい状況なんですけど、そんな状況下だと『オルフェンズ』は辛すぎて、無理なんですよ。日曜夕方に観たら、物語の重さから立ち直れなくて、月曜会社に行けなくなってしまいます(笑)。
『オルフェンズ』は観ていて泣いちゃう人がいるくらいシリアスなアニメなんです。感情移入していたキャラクターが続々と死んでしまったりとか。
そういった落差が激しい分感動も大きいドラマティックなアニメを好む人と、『WWW.WORKING!!』のように安心して楽しめる娯楽を求める人がいる、と、今までの4作品の分析を見ていて思いました。
4作品の分析をさらに総括すると、『舟を編む』と『ユーリ!! on ICE』は女性ファンが多いというのを除くと現実的な人間ドラマにフィクションが加わったものが好きだということが共通して言えます。実写作品でも良いのですがたまたま表現がアニメだからこその良さが出ている作品が好きということですね。今期だと『クズの本懐』がまさにそれです。それから『ドリフターズ』ファンは、バトルやハードボイルド、歴史ドラマなどを好む傾向だと思います。架空世界的なもので激しい感情の変化に没入するタイプですね。
『ガーリッシュ ナンバー』ファンはラブコメなど日常を忘れさせてくれるような気楽に観られる作品を好んでいます。今季アニメで言えば『ガヴリールドロップアウト』『小林さんちのメイドラゴン』あたりはそういう要素の作品だと思いますね。
テレビ番組のジャンルでいうと、『舟を編む』と『ユーリ!! on ICE』ファンが好むような作品は深夜枠やBSなどで放送されているゆったり観られるドラマ、『ドリフターズ』ファンが好む作品はゴールデンタイムにドキドキしながら観る刑事ドラマやサスペンスのようなもので、『ガーリッシュ ナンバー』ファンが好む作品は『ザ!鉄腕!DASH!!』みたいな「今日も好きな芸人やアイドルが楽しそうに頑張っているな」と思いながら観るバラエティのような感じですね。
こういったデータを見ていると、いろいろなグループ化ができるのが興味深いですね。
「この作品ならではのファン」に関する分析は以上として、ライブ率・再生率・予約率の3率を軸にして視聴タイプを分類してみました。全部で6つに分けられますが、ライブ視聴タイプ、再生視聴タイプ、ライブ・再生バランスタイプの3つは名前の通り分かりやすい視聴タイプです。問題は残り3つのタイプです。
1話以降、上昇傾向が一定以上続くダークホースタイプは、『Re:ゼロから始める異世界生活』、『斉木楠雄のΨ難』、『モブサイコ100』の3つしかありません。この3作品以外は1話以降、回が進むにつれて各指標の値が徐々に下がっています。残り2つは1話切りのあとになだらかに視聴が継続する固定ファンタイプと、予約率が高い割に再生率は低いストックタイプに分かれます。ダークホースタイプ、固定ファンタイプ、ストックタイプをグラフにしてみるとスライドの通りです。ストックタイプは録画するけども再生するのが全体の3分の1以下になっています。そういう作品は死蔵されてそのままになりやすいと思います。
このストックタイプって1話切りや2,3話切りされながら、積極的に録画を打ち切るほどではないので録画はされ続けるけれども、再生されることもなく結局たまっていっちゃう扱いがなされる作品ですね。
優先順位が高くないからハードディスクの容量がなくなったら消去されてしまうだろう作品ですね。キープに近い感覚を持たれてしまっているということです。「早く観たい」「次も早く観たくなる」という惹きがある作品か、あるいはすでに固定ファンがついているかどうか。上位に食い込む作品はやはり固定ファンタイプが多いことが分かります。つまり、予約に対して再生が少ない番組は死蔵されやすいということですね。なので、ストックタイプから固定ファンタイプにどうやって上げるかが重要だと思います。
今回使用した資料が収録されている本をご紹介します。
入手方法 (2016/夏コミケ・冬コミケ、等で販売したものを通販や店舗で販売中)■ COMIC ZIN 様 (通販/店舗)
http://shop.comiczin.jp/products/list.php?category_id=7015
■ 書泉 様 (店舗)
書泉ブックタワー (秋葉原) 8F 書泉グランデ (神保町) 2F
アニメの見られ方 公式サイト (視聴ログ分析ギルド) http://animevlguild.tumblr.com/
インタビュー記事
2016秋アニメ: http://ascii.jp/elem/000/001/219/1219039/
2016春アニメ: http://ascii.jp/elem/000/001/465/1465305/
アニメグラフデータソース (TimeOn Analytics) : http://m.timeon.jp/analytics/