私たちは今、1日何時間、パソコンの前で生活しているだろうか……。情報、通信、ショッピング、オークション、動画はもとより、SNSや『セカンドライフ』といったリアルタイムの仮想世界まで登場し、ますますリッチになっていくインターネット・コンテンツ。それは、人々の生活に大きな利便性や娯楽、新しいビジネスを生み出してきたと同時に、映像に絡む権利問題等さまざまな問題が新たに起こっていることも事実。インターネットは、これからどのように進化していくのだろうか。それに伴い、生活やビジネスはどう変化していくのだろうか。インターネットビジネスの先駆者とも いえる楽天株式会社の鈴木尚さんにうかがってみました。
―シンプルにうかがいたいと思います。これから10年、 インターネットの世界ではどんなことが起きていくので しょうか?
いきなり大きすぎる質問ですね(笑)。答えるとすれば、「何 が起きるか誰も予測できない。それがインターネットの世界である」ということでしょう。なぜなら、いつでも《発明》 が起きる可能性を持っている世界だからです。たとえば、『YouTube』のようなコンテンツが登場した途端、あっとい う間に変わってしまうわけです。『YouTube』という《発明》を予測することは誰にもできませんでしたよね。
―私たちが肌で感じるのは、PCや携帯電話といった端 末を通じて「オンライン・コンテンツ」に接触する時間が、 つい数年前と比べてとてつもなく増えていることです。 そして、これからますますその時間は増えていくような 気がしますが。
そうですよね。たとえば、PCを開くと、毎日そこに大量の 仕事が待っているわけですが、その仕事にかかる前に「とりあえずmixiを見る」という人も多いですよね。mixiが登場す る前はそういう時間はなかったわけですから、魅力的なリッチコンテンツが登場するたびにPCに縛られる時間は長 くなっていくでしょうね。しかし、人々に与えられた時間は 1日24時間。それは未来永劫変わらないことですから、その 中で選ばれるコンテンツは、「より本質的なコンテンツ」に限られていくのではないでしょうか。
―「より本質的なコンテンツ」といいますと ?
「人間が抱く欲求や夢や本能に深くかつ直接的に応えてい くコンテンツ」ということです。平たく言えば「人の心を捉えるコンテンツ」。インターネットの世界では、まだそのよ うなコンテンツが成熟しているとはいえない状態です。さまざまなコンテンツが生まれては消えていく、入れ替わり の激しい世界。しかし、そろそろ「本質的なコンテンツ」を生み出さないといけないというステージに来ていると、私は 思っています。本質的なコンテンツを生み出せなければ、「ネ ット市場 =泡沫コンテンツ市場」になってしまうわけで、 それは、私たちのビジネスにとっては大きな問題です。
―インターネットビジネスのリーディングカンパニーで ある<楽天>としては、その「本質的なコンテンツ」を 作り出していく使命があるわけですね。
そうです。まさに私が推進していこうと考えていることは、 それです。<楽天>のビジネスの本丸は、「ショッピング」。ショッピングという行為は、人間の欲求や夢にダイレクト に答えるもの。だから、ここで より本質的なコンテンツ作り を実現することが、<楽天>の大きな使命であると考えてい ます。そして、そのためには、放 送局をはじめとするコンテン ツを作ってきた方々との「協働」が必要だと考えています。
―なぜ「協働」が必要なのですか?
端的にいいますと、私たちネット側の会社は、「質の高いコ ンテンツ」をつくる人材やノウハウを持っていないからです。「質の高いコンテンツ」とは、「人の心を捉えるコンテンツ」 ということ。放送局は、それを作る人材とノウハウを持っています。たとえば、ショッピングの場合、まず最初に消費者 に「買いたくなる気持ち」を起こさせなければいけません。次に、ネット側が買いたくなったものをよりスムーズに効 率よく手に入れる手段・方法を提供する。最初の「心を動かす」ステップは放送局側、次の「行動をサポートする」ステップ はネット側が得意な仕事です。「放送と通信の融合」ということが言われましたが、私としては、「融合」というよりも「歩 み寄り」「協調」「連携」というべきではないかと思っています。それぞれが得意な領域をかけあわせてシナジーを生み出し ていけば、新たなヒット商品やヒットカルチャーも生まれるのではないでしょうか。
―とはいえ、まだ、放送と通信にはさまざまな溝が存在 することも確かですよね。どうすれば「歩み寄り」「協調」 「連携」が実現するのでしょうか。
放送局がナーバスになりすぎているといった指摘も一部あ りますが、私は、ネット企業側にも大きな問題があったと思っています。ネット側の人間は、「コンテンツ」や「クリエー ティブ」といったことに対する理解が希薄なまま、猛スピードでビジネスをつくってきた。言ってみれば、産業革命的な ことにエネルギーを注ぎ過ぎてきました。その結果、コンテンツに対してある意味で「乱暴な行為」をしてきたことも確 かで、その乱暴さに対して放送局側が警戒感を強めてしまったといえると思います。たとえば、60分ドラマは、60分 続けて見るべきものであり、10分ずつ6分割したら元のドラマではなくなる―そのことをユーザーも含めたネット側 の人間が、理解しなくてはいけない。「やれることはどんどんやればいいじゃないか」では、もはやいけないのです。し かし、ここに来て、ネット側にいる人間でそのことに気付いている人々もようやく増え始めました。楽天という会社が その筆頭になり、「歩み寄り」「協調」「連携」のためのルールづくりを推進していきたいと思っています。