2014.February | vol.125
そろそろ見えてきた。テレビとソーシャルメディアのいい関係。
2014年1月20日 電通ホールで行われた講演より
株式会社毎日放送東京制作室プロデューサー 福岡元啓さん
株式会社電通プラットフォーム・ビジネス局 ソリューション開発1部 前川駿さん
ツイッター、フェイスブックをはじめとするソーシャルメディアが台頭して数年が経つ。当初は、それらがテレビにとってどうすれば有効に機能し、相乗的な効果を生むのか、暗中模索していた時があった。しかし、最近は、ソーシャルメディア自体を番組コンテンツと連動させたり、あるいは番宣ツールの一つとして上手に活用したりすることで、新しい視聴者の開拓に奏功している番組も少なくない。とりわけ、ソーシャルメディアの影響力が大きい若者層に対して、テレビ番組コンテンツとどう連携や連動を図るかは、番組の視聴率さえ左右するケースもある。ドキュメンタリー番組とソーシャルメディアの連携に取り組む『情熱大陸』のプロデューサーである株式会社毎日放送東京制作室 福岡元啓さんと、若者のテレビ視聴に関するインサイトを探求しつづけてきた株式会社電通プラットフォーム・ビジネス局 前川駿さんのお2人のお話をうかがってみました。
※2014年1月20日、電通ホールで行われた講演より。
株式会社毎日放送 東京制作室 プロデューサー
福岡 元啓(ふくおか もとひろ)
1998年入社。ラジオ局、報道局を経て2006年に東京制作室に異動。2010年秋より「情熱大陸」5代目プロデューサーを務める。「小島慶子」編「石巻日日新聞社」編で2011年ギャラクシー奨励賞。「二木あい」編がワールドメディアフェスティバル金賞受賞。番組初の生放送・アプリの開発など、試みを続けている。3月24日に双葉社から、番組制作の裏側を綴った初の自著「情熱の伝え方」を発売予定。
■株式会社毎日放送東京制作室プロデューサー福岡元啓さんの講演より
--15年続いている老舗番組だからこその「新挑戦」。
『情熱大陸』は、おかげ様で、今年5月で800回目の放送を迎えます。この番組が始まった当初は、ソーシャルメディアなどというものは世の中に存在していませんでした。ソーシャルメディアが世の中に台頭し始めた当時、バラエティ等の番組はわりと早くから連携、連動を試みうまくいっている番組もありましたが、我々ドキュメンタリー番組の場合、コンテンツの性質上なかなかソーシャルメディアとは結びつかないんじゃないかという感覚はありました。『情熱大陸』の場合、制作に1週間かける場合もあれば3年かける場合もあり、制作の期間も進め方も多様であるため、番組として一律にソーシャルメディアをとり入れて…ということが難しい事情もあります。それでも、何もしなければ番組自体の進化もありませんので、様々な試行錯誤をしながらやってまいりました。2013年1月20日にオンエアした、芸人福田彩乃のドキュメンタリーでは、生放送とツイッターを連動させるといった企画を行いました。現在では、ツイッターのフォロワーが11万人超、フェイスブックでも6万5千を超える「いいね!」を獲得するまでに成長いたしました。
--毎週の視聴者からのツイートを見て感じること。
視聴者から寄せられるツイートは、毎週約300ほど。いろいろやってみて判ったことは、番宣的なことをつぶやいても、フォロワーはつかないということ。個人的な不幸をつぶやいてみたり、立ち寄った蕎麦屋でふと目に留まった名言をつぶやいてみたりするほうが、俄然フォロワーがつきます。まさに、「思いつき」「つぶやき」といった性質の言葉に反応があり、予定調和な言葉やリアルタイム性の薄い言葉には反応がありません。つまり、ソーシャルメディアとは、パーソナルなメッセージ、リアルタイムなメッセージが力をもつメディアであるということ。この認識が、ソーシャルメディアを活用する際の大事なポイントになると思います。
--番組詳細閲覧回数は、視聴率のバロメーターになる。
番宣という観点からソーシャルメディアをどううまく活用するか。電子番組表等と連携し、いかに番組詳細の閲覧に誘導していくかで、視聴率さえも左右する場合があります。実際、2013年7月に放映した「役者・綾野剛」のドキュメンタリー番組は、放映前の番組詳細閲覧数が、全番組中、『半沢直樹』『あまちゃん』に次ぐ第三位を獲得しました。このときに実際にオンエアされた番組の視聴率は、関西、関東とも過去5年間で番組最高の視聴率となりました。番組詳細閲覧数の多さと視聴率の高さとには、相関関係があると思われます。裏返して言えば、番組詳細閲覧数をより多く獲得できるコミュニケーションができれば、おのずと番組視聴率も伸びていくと考えてよいでしょう。その意味でも、ソーシャルメディア、そして電子番組表の活用は大きな鍵を握ると思います。
株式会社電通 プラットフォーム・ビジネス局 ソリューション開発1部
前川 駿(まえかわ しゅん)
2006年 電通に入社。1年間、新聞局にて毎日新聞社担当で新聞広告を販売の後、
2007年から主に視聴率に加え、ソーシャル、Webなど様々なデータ及びテクノロジーを
活用した広告セールス支援や新規ビジネス開発に従事。
IPGと協業し、番組視聴率向上のための番組宣伝業務の体系化を推進中。
Web計測ツール SiteCatalyst導入支援認定OCSD取得。
■株式会社電通プラットフォーム・ビジネス局 ソリューション開発1部前川駿さんの講演より
--今どきの10代は、テレビ番組情報をどのように得ているのか。
家に帰ったら何となくテレビのスイッチを入れ、ザッピングしながら見る番組を決める-そうした従来のテレビ視聴の習慣と、今どきの10代のテレビ視聴の習慣はだいぶ異なるようです。グラフによると、10代の場合、過半数が「あらかじめ見る番組を決めてテレビをつける」という視聴習慣をもっており、事前に「見たい番組」として認知させるかが重要です。そのためには彼らの番組情報の取得源のひとつであるツイッター、フェイスブック、LINE等のソーシャルメディア上の拡散と学校や自宅でのリアルクチコミによって、いかに番組関連情報を話題にしてもらうかが必要です。合わせて最終的に「この番組を見よう」と決定させるには10代であってもテレビの電子番組表が大きな影響力を持っています(グラフ2)。
ソーシャルメディア上では直接的な放送告知は避け、より投稿内容自体がコンテンツとして楽しめるものを提供し、直接的な放送告知自体は電子番組表上で充実させる。そういったソーシャルメディアと電子番組表の両者の連動・相互誘導が必要だと考えています。
--ソーシャルメディアで盛り上がる内容の「質」が重要。
ソーシャルメディアだけで話題になっても、リアルクチコミで話題にならないと新規視聴獲得は限界があります。ソーシャルメディアで特定のアーティストや出演者のファン同士が身内で盛り上がることはきっかけとしてあり、そこから派生しもともとのコンテンツのストーリーや企画自体がみんなの共通話題になる。その結果ソーシャルメディアとリアルクチコミの両者が相乗していくことで初めて新規視聴が生まれるのだと考えています。
その意味では、ソーシャルメディアで拡散は単にツイートの多い・少ないだけでなくて、特定人物の「ファンのみによる拡散」か、コンテンツそのものに対する「みんなの拡散」かどうかといった「拡散の質」にも注意を払う必要があると考えています。
「みんなの拡散」を生み出す2つのコツがあると思っています。
ひとつは「情報の圧縮性」です。ジャンル問わず、番組をひとことで表す共通キーワードやモノマネしたくなる象徴的なシーン(e.g. じぇじぇじぇ、倍返し、バルス、おめでとう!)が拡散の種として仕込まれているかどうかです。そしてその種を咲かせるために公式アカウントから共通キーワードを使ったゲームや投票が投げかけられる、ハイライト的に象徴的シーンを投稿するなどの拡散支援が必要であると思います。
もうひとつは「枕木感」などと呼んでいますが、宣伝として拡散のストーリーのレールを引きすぎず、枕木を構えるくらいにして、後の拡散行為はユーザに任せて黙認しまうという「ふわっとしたマネジメント(枕木感)」です。明らかに拡散を期待し作り込んだバズの仕掛けにはリテラシーの高いユーザは乗ってきません。シェアしたその人自身が周りのフォロワーから、この人はおもしろい、うらやましい、賢い、役に立つなど、ポジティブに捉えられるものでないと拡散するメリットがないためです。ソーシャルメディア上のユーザがコンテンツのキーワードやシーンを面白がって、アレンジしたり/デフォルメしたり/マークを付けたりという手をくわえられる余地があると、どんどん拡散してくれる人が拡がり、そうして初めて、「みんなの共通話題」に昇華していくのだと考えています。(もちろん、権利等の様々な課題が残っているとは思います。)
イベントであれ、旅行であれ、映画であれ、何かしら能動的な行動を10代に選択させる場合には、その体験の魅力であるコンテンツ価値に加え、「後でソーシャルメディアでアップした時に、たくさんいいね!がつく」かどうかという「コミュニケーション資本価値」が重要であると言われています。10代にとって能動的な選択行動のひとつであるテレビ視聴も、程度の違いはあれ同じであると考えています。
このように「情報の圧縮性」は狙わないと成立しないし、「枕木感」は狙い過ぎてはいけないという中庸さが、ソーシャルコミュニケーションの難しさであり、面白さでもあると思います。
今後は、ソーシャルメディアにおける番組情報とブランドの関係、その相乗的な拡散手法について具体的事例を積んで行きたいと考えています。
--貴重なお話をいただき、ありがとうございました。