株式会社 IPG

ipg

IPGのサービス、Gガイド、Gガイドモバイル、シンジケーテッドGガイド、G-Guide for windows

Gプレスインタビュー

2013.December | vol.123

印刷用ファイル
vol.123photo

自分をクリエイターと思ったことは、一度もありません。

日本テレビ放送網株式会社
制作局 チーフ・ディレクター

古立 善之さん

ふるたち・よしゆき
日本テレビ、制作局チーフディレクター。 1997年の入局後、「スーパーJOCKEY」のADを経て「電波少年」「雷波少年」でディレクター。 その後、演出としてさまざまな番組を手がけ、現在は「世界の果てまでイッテQ!」 「月曜から夜ふかし」「満天☆青空レストラン」「うわっ!ダマされた大賞」の企画・演出を担当。 また2009年・2011年・2013年と三度の「24時間テレビ」の総合演出も務める。

 今年9月に発刊いたしました弊社編著『テレビ番組をつくる人』(PHPパブリシング)の反響にお応えして、今回は、新世代の注目ディレクターとして、『世界の果てまでイッテQ!』『月曜から夜ふかし』等のチーフ・ディレクターを担当する古立善之さんにお話をうかがってみました。

-『世界の果てまでイッテQ!』というヒット番組を生み出した背景について、おきかせいただけますか。そこに、古立さんのどんな意図と、どんな企みがあったのかという。

 もともとは、素朴な疑問を解消する番組を作ろう的なところから出発しました。今や人気コーナーとなった登山企画も、最初は「真冬に富士山は登れるのか」という疑問を解消しようという企画から始まりました。無論、登山家の間では、冬の富士登山は行われていることなのですが、それを一般人はどこまでできるのかという挑戦をしてみる中で、何か特殊なこと、特別な事が起きるのではないかと思ったわけですが、正直、登山という企画がここまで化けるとは想定外でした。ただ山を登るだけじゃないですか。そこにエンタテインメントが成立するとは思っていませんでした。でも、やってみたら、精神的な事、人間がギリギリの状態に追い込まれたときに起きる事、ものすごい風景……と、テレビ的な事がぎっしりと詰まっていたわけです。

-最初から「これはあたるだろう!」という感じではなく、やりながら育っていったわけですね。古立さんの番組づくりとは、割とそういう感じなのでしょうか。

 そうですね。「これはヒットするぞ!させるぞ!」と思って番組をつくることは、僕の場合ないです。いつも「主題探し」に苦しんでいます。「主題」というのは、番組で視聴者に何を伝えるのかという、番組づくりにおいて最も大事な部分なわけですが、自分の場合、常にそれを模索しながら、進めながら見つけるという感じです。『世界の果てまでイッテQ!』も、当初は、「特番ソフトだね」「1クールしか持たないんじゃない」等と評されましたし、1年目はずっと低空飛行でしたから。

-イモトという当初無名のタレントを発掘し、うまく起用しながら、ヒット番組を作りあげていく。結果、タレントの価値も上がっていく。-この手法は、古立さんの大先輩である土屋敏男さんの『進め!電波少年』的手法だなぁと見る人も多いと思いますが、今のお話をうかがうと、古立さんの番組づくりの根っこにあるものは、土屋さんのそれとはかなり違う気がしますね。

 『世界の果てまでイッテQ!』は、無論、イモトという類稀なタレントの力は大きいですし、彼女がすごいものを持っているタレントであることは確かです。でも、僕は、最初からあまりイモトにベットしていないんです。『世界の果てまでイッテQ!』は、番組名の通り、世界の果てまで行く番組ですからロケが命です。しかし、途中、ユーロ高と原油高が重なり、非常に苦しい状態になってしまい、珍獣ハンターの企画も当時まだ無名だったイモトにやってもらわざるをえない状況になってしまったんです。錚々たる俳優が登場する大河ドラマの裏で、無名タレントのロケ番組なんて大丈夫か…と懸念する人もいましたが、そこは、土屋さんのもとでやってきた経験から、無名の人間を舞台に上げることに抵抗はありませんでした。結果、数字もとれていくようになりましたが、とはいえ、「イモトを舞台に上げればイケる!」という確信があってとれたわけではありません。そこが、土屋さんとの大きな違いですね。土屋さんは、やっぱり舞台に上げるときは、「この人物をこういう風に上げれば、世の中は見てくれる」という確信があって上げていると思うんです。自分には、無理ですね。『世界の果てまでイッテQ!』を始めてから、土屋さんから一度だけメールがあったんですよ。「お前は、あの子(イモト)にベットしていないだろ。あの子は伸びるぞ」と。よく見てるんです。すごい人だなぁと思います。それ以来、土屋さんからメールが来たことはありません(笑)。

-土屋さんが手がけてきたような「これを見よ!」的なプッシュ型のヒット番組の作られ方と、古立さんのようにいつも進めながら主題を探りながら作っていくプル型的なヒット番組の作られ方と、二通りあるのですね。

 そうですね。前者は、いわゆる「クリエイター」という部類の人たちの作り方だと思います。自分が面白いと思ったことに徹底的にベットして、世の中に「どうだ!面白いだろ!感激するだろ!」と押し出していく。それが外れたときは、クリエイターとして失格。-それが、土屋さんたちのようなクリエイターなのだと思います。僕は、自分をクリエイターだと思ったことは一度もありません。普通のサービス業をしているサラリーマンだと思っています。言いかえれば、自分は土屋さんのような特殊な人ではないと思っています(笑)。だから、サラリーマンとして頑張るしかありません。いつも主題探しに苦しんでいて、「お前は何がやりたいんだ?」ときかれても、それが「見つかっていない」あるいは「ない」ときもありますから。おそらく、クリエイターの人たちからすれば、「自分のやりたいことがない」なんて許されないことだと思います。

-自分のやりたいこと探しではなく主題探しに尽力する古立さんの番組作りというのは、言いかえれば、徹底した視聴者目線での番組作りともいえますよね。『世界の果てまでイッテQ!』は、今どきの番組としては珍しく、小さい子どもからお年寄りまで全世代から指示されている秘訣は、そこにあるのかもしれませんね。クリエイターによる番組制作の場合、どうしてもクリエイター自身の我的な視点が出ますから、ターゲットが絞られる傾向にあるのではないでしょうか。

 意識したことはありませんが、そうかもしれませんね。確かに、自分の場合いつも、「これ、うちのおふくろが見てもわかるかなぁ、面白いかなぁ……」「これ、うちの小1の息子が見てもわかるかなぁ、面白いかなぁ……」という視点で作っています。珍獣ハンターの企画も、根っこには「今の子供たちに野生の動物を見せてあげたい」という思いがあります。だから、自分としては、動物をしっかり見せたい。ディレクターズカットを見て「これでは、動物を見せているのではなく、イモトを見せているカットじゃないか」と思うことがときどきあります。テレビ業界の大人たちは、特に今までたくさんのテレビ番組を手がけてきた先輩たちは、こう思うんです。「野生動物の姿なんて、今までたくさんの番組でとりあげてきたから、それだけじゃ新しくない」と。でも、それってテレビを作る側の一方的な目線であって、たとえば、そうした番組を見たことのない子供たちにとっては、初めて見る映像なのです。エンタテインメントの多様化が進んでいくなかで、いまの子供たちに「テレビって面白い!」と思ってもらわなければ、テレビの未来は先細っていってしまうわけですから、彼ら彼女らを蚊帳の外にしない番組づくりを心がけたいと思っています。

-本日は、お忙しいなか興味深いお話をいただき、ありがとうございました。

バックナンバー

2013 / 2012 / 2011 / 2010 / 2009 / 2008 / 2007 / 2006 / 2005 / 2004 / 2003 / 2002